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連載

《世界のキーパーソン》 マスード・バルザニ(イラク・クルド人 自治区大統領)

「独立」で中東に乱を起こす男

2017年10月号

 イラクのクルド人自治区(KRG)で九月二十五日、「独立」を問う住民投票が行われ、圧倒的多数が独立に賛成票を投じた。「国家を持たない世界最大の民族」であるクルド人は、米中央情報局(CIA)の推計で三千万人(パリのクルド研究所の推計は四千五百万人)。トルコ、イラン、イラク、シリア四カ国にそれぞれクルド人居住地域がある。その一部が、「独立」に向かうのだから、中東の地図を書き換える事件だ。
 KRGのマスード・バルザニ大統領は、住民投票の牽引役で、イラク政府はもとより、イラン、シリア両国政府の猛反対を無視。米トランプ政権が強く自制を求めたのにも応じずに、突き進んだ。当初は投票後にイラク政府と話し合うとしていたが、バルザニは「(K
RGは)もはやイラクの一部ではない。イラクは隣国だ」と宣言して、混乱を深めている。
 独立だけでも難事業なのに、肝心のクルド人はまとまっていない。バルザニのライバルであるジャラル・タラバニ前イラク大統領は、投票に冷淡な姿勢を貫いた。投票日の各種報道によると、タラバニ率いるクルド愛国同盟(PUK)の支配地域では、「ふだんと変わらぬ一日が過・・・