三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

をんな千一夜 第13話

楠本イネ 幕末維新を生き抜いた「混血女医」
石井 妙子

2018年4月号

 欧米人の血を引く女優や、「ハーフタレント」といわれる人たちの活躍が目立つ。目鼻立ちの整った彫りの深い顔立ちは若い女性たちの憧れの的だ。欧米外国人と付き合いたいと、夢見る日本女性も多い。だが、かつての日本では混血は忌避され理不尽な差別を受けた。ましてや幕末は。
 鎖国政策を取っていた江戸幕府が唯一、外国に門戸を開いた場所が長崎県の出島である。島原の乱以降、幕府は交渉相手をポルトガルからオランダに代え、出島のオランダ商館には様々な人物が派遣されたが、とりわけ有名なのはシーボルト事件を起こした、シーボルトであろう。
 実際にはオランダ人ではなくて、ドイツ人。代々、医者や学者を輩出してきた名門貴族の出身で、シーボルトも大学では医学、植物学、動物学、地理学などを幅広く学んだ。知的好奇心の強かった彼は次第に東洋を探訪したいと思うようになり、オランダ人だと偽り出島に医者として赴任したのだった。
 彼は治療にあたるだけでなく、塾を開いて西洋医学を学びたいという日本人に知識や技術を惜しみなく伝授した。と同時に、他のオランダ人同様、長崎の丸山遊廓にいた遊女を日本滞在中の「日・・・