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連載

美食文学逍遥 第20話

野ネズミがふるまう御馳走
福田 育弘

2018年8月号

 民話や童話、絵本には、飲食がよく登場する。
 病気のおばあさんにお菓子とワインを運ぶ女の子が狼に食べられて猟師に助けられる『赤ずきん』、狼に襲われながら最後は煙突から侵入した狼を暖炉の鍋で煮て食べてしまう『三びきのこぶた』、狩りをしていた紳士二人が山奥で入った「山猫軒」がじつはお客が料理を食べる場所ではなく、お客が料理されて食べられてしまう店だとわかる宮沢賢治の『注文の多い料理店』など、飲食という行為がストーリーの軸になっている子ども向け作品のなんと多いことか。
 考えてみれば、子どもほど食べることに関心を示す存在もいない。子どもは、食べて排泄し、遊んでは眠り、成長する。子どもにとって、食べることは、自身の身体を作るとともに、世界と関わるもっとも重要で楽しい活動なのだ。
 そんな子どもたちに今でも読みつがれている絵本がある。『ぐりとぐら』だ。一九六三年に刊行されて以来、すでに二百二十一刷、発行部数五百十万部を誇る一大ロングセラーだ(二〇一八年六月現在)。
 刊行当時すでに小学校高学年だったわたし自身はこの絵本に親しむ年齢ではなかったが、十歳違い・・・