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連載

皇室の風 第124話

ジョージ五世伝と伊勢湾台風
岩井 克己

2018年12月号

 神話的時間は循環し、螺旋的に進むといわれる。過去は消えず、過ぎ去らない。だれもが死者たちをはじめ忘れがたいものの重畳を抱えつつ生きる。
「人間を襲う数々の不幸の究極的原因は、時間の流れの不可逆性にある」(岩村太郎「二つの時間意識―カイロスとクロノス」)。失ったものは取り戻せない。そこに祈り、神話、祭礼も生まれる。
 間もなく終わる平成の天皇の足跡を振り返ると、「平成流」と呼ばれる能動的・積極的活動の原点が若き皇太子時代の体験にあり、そこから螺旋的に展開されてきたようにみえる。
 魚類分類学という地道な実証科学の訓練を経て得た、細部をゆるがせにせず観念論の陥穽に堕ちぬ姿勢と相まって「社会に内在し人々に寄り添う」象徴像を描いてきたのではなかろうか。
 若き日の昭和天皇が立憲君主の心得を学んだ英国王ジョージ五世の伝記を、小泉信三が若き明仁皇太子に読ませたことはよく知られている。その小泉が、皇太子がレポートとして提出した読後感の一部を随筆で紹介している。
「英国で、ジョージ五世、ジョージ六世と、つづいて第二皇子から国民に敬愛される国王を出して・・・