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経済

三井住友銀が悪質「金商法違反」

「國部と太田」経営陣の責任問題へ

2019年1月号公開

 何やら波乱含みの船出となりそうな気配が濃厚だ。
 二〇一九年四月一日から新経営体制をスタートさせる三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)。一一年から八年間にわたってグループの顔をつとめてきた國部毅社長が代表権のない会長に退き、後任に太田純副社長が昇格。傘下のグループ中核、三井住友銀行(SMBC)の髙島誠頭取は続投し、メガバンク輪番制となっている全国銀行協会の会長職を藤原弘治・みずほ銀行頭取から引き継ぐ。
 旧三井出身で首脳陣の一角に唯一、名を刻んでいた宮田孝一SMFG会長兼SMBC会長に残る肩書は代表権なしのSMBC会長職だけ。その影は一段と遠のき、旧住友によるグループ完全統治がほぼ実現する格好だ。
 だが―。事情通によると、旧住友勢に「満願成就」の達成感は欠片もないという。否、それどころか、身内出身役員が関与したとみられる取引を巡って金融庁から大目玉を食らい、実は「厳しい処分に怯える戦々恐々の日々が続いている」(SMBC関係者)というのである。
 事の発端は一六年四月。SMBC副頭取で法人営業部門トップだった清水喜彦氏がSMBC日興証券の社長として天下ったことからはじまる。山梨県出身で早稲田大学商学部卒業後、旧住友に入行。営業からのたたき上げで副頭取にまで上り詰め、銀行時代についたあだ名が「鬼軍曹」。どこで覚えたのか、へんてこりんな関西弁でまくし立て、部下にも安易な妥協は許さない。

銀行顧客を脅して証券へ誘導

 この「鬼軍曹」が社長就任後まもなく打ち出したのが「三年間で圧倒的な二位を目指す」との大号令だ。大和証券を抜いて証券業界二位の座を固めるとともに、一位野村證券への挑戦権をつかもうという野心的計画。リテール営業部門の人員を二千人から一九年四月までに三千九百人へと倍近く増やして攻勢をかける一方、銀・証一体営業を加速化してホールセール部門の収益を底上げする。このためこれまでは銀行からの一方通行だった人事交流を双方向に切り替えるといった施策も打ち出した。要するに証券から銀行の法人営業部門に人材を送り込もうというわけだ。
 ファイアーウォール規制でかつては禁止されていた銀行と証券の役職員兼務は〇九年六月の規制緩和で撤廃されている。従ってそのこと自体に問題はない。とはいえ、自らの影響力が色濃く残る古巣に人を送り込めばどうなるか。かつての部下らは清水氏の意向を忖度して動こうとし、送り込まれた方も「鬼軍曹」の威を借りる形で銀行側に無理難題を吹っ掛ける。こうして銀・証を隔てる垣根はあっという間に崩壊。「暴走」(SMBC関係者)がはじまった。
 関係筋によると、SMBC法人営業部の行員とSMBC日興証券の営業マンらはSMBCの取引先企業やその経営者らを共同で訪問(ここまでは合法)。融資を行っていることをちらつかせながら、SMBC日興証券への口座開設や他社の証券口座からのSMBC日興証券の口座への保有株の移し替えなどをしきりと勧誘して回っていたらしい。事実とすれば優越的地位の濫用は明白。金融商品取引法、銀行法はもとより独占禁止法にも抵触する。
 そんな最中、SMBCに金融庁の検査が入ったのである。一説には内部通報だったともされるが、金融庁はその過程で問題がありそうな事案を次々と指摘。詳細な内部調査を行って実態を解明するとともに、不適切な行為を認識した場合には再発防止策を取りまとめて責任の所在の明確化を厳しく指導。早急に報告書を作成して提出するよう強く求めているという。
 銀・証間における法人顧客の非公開情報の共有は、従来、顧客の事前同意が必要とされていた。しかしこれも規制緩和が進み、現在では情報共有の制限を受けるのは顧客が不同意の姿勢を示している場合だけとなっている。ただ金融庁筋によると、SMBCとSMBC日興証券はここでも優越的地位を利用して同意を強要としたとみられているとか。一部では「最もタチが悪い」(金融関係者)とされる、新規融資の実行と証券口座開設などをセットにした「抱き合わせ行為」まがいの営業まで行われていた疑いももたれているようだ。
 SMBCやSMBC日興証券側が憂慮するのは、金融庁によって「組織的関与」を認定されてしまうことだろう。その場合、事は単なる行政指導や業務改善命令では済まなくなり、「最悪の場合、スルガ銀行のような一部業務停止命令もあり得る」とSMFG関係者。

金融庁の厳しい姿勢

 責任の所在の範囲が経営陣にまで及ぶ可能性も浮上する。優越的地位の濫用は「悪質なコンプライアンス違反」(三菱UFJ銀行関係者)。上層部の指示の下にこれが日常的に繰り返されていたとなれば、その罪は「一段重い」(同前)とみなされかねないからだ。現在の法人営業部門のトップは旧住友出身の成田学副頭取(SMFG執行役副社長を兼務)。周辺筋からは「すでに本人はクビを洗って待っているといった心境らしい」との声も漏れる。
「鬼軍曹」の首も危うい。金商法では証券会社がグループ銀行の取引上の優越的地位を不当に利用して取引することを禁止しているからだ。組織の関与の度合いによっては、さらに國部氏や検査当時すでに代表権者だった太田次期社長ら最高首脳にまで及ぶ可能性も捨て切れまい。
 グループ内部では「仮に組織ぐるみの疑いを払拭できた場合でも、経営陣の責任は免れないのでは……」といった見方も広がる。現場で優越的地位の濫用が繰り返されていたことを把握できず、上層部が見逃し続けてきたとなれば、今度は「ガバナンス不在」とみなされかねないためだ。SMFG関係者の一人は「その場合トップの責任まで問われることはないにしても、成田副頭取の出処進退は当然、俎上に載ることになる」として、金融庁の出方に警戒感を募らせる。
 現在、SMBCは金融庁に提出する報告書に盛り込む内容を巡って水面下で当局側と激しい攻防戦を繰り広げているとされる。事情通によると「一度は素案を作成して提出したものの、『踏み込み不足』として突き返された」模様。金融庁の厳しい姿勢を察知して内部は騒然としつつあるらしい。
 SMFGは一八年度上期(四~九月)に、ソフトバンクグループ傘下の米スプリントとT―モバイルUSとの合併商談でソフトバンク側のフィナンシャルアドバイザー(FA)をつとめるなど、M&AにおけるFA獲得件数でトップ。さらには株式・債券引き受け実績やIPO主幹事実績でもいずれも上位に食い込むなどこのところホールセール市場での存在感を急速に高めている。このため野村や大和など専業大手からはかねて「銀・証間での不適切な情報共有が横行しているのでは……」として疑問の声が上がっていた。新社長就任即、謝罪会見といった無様なハメに陥る公算もゼロではなさそうだ。
 


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