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連載

日本の科学アラカルト 104

干ばつに負けない穀物生産に向けた取り組み

2019年4月号

 気候の変動によって人類社会がどのような影響を受けるのか、断定的なことは誰にも言えない。そもそも二酸化炭素がその主因であるのかについても賛否があり、あれほど使われていた「温暖化」という単語は、「気候変動」にとって代わられてしまった。
 しかし、原因はともかくも「異常気象」と呼べるような事態は近年増えている。日本人の体感でも、ここ数年の夏場の豪雨災害は増加し、「数十年に一度」という言葉が安売りされている。片や、世界では雨に恵まれないエリアも多い。昨年も多くの途上国で干ばつにより麦の生産量が低下したほか、オーストラリアでも羊毛生産が落ち込み、米国西海岸では山火事の拡大が深刻化した。
 世界の主食の一つであるコムギの生産量の低下は、経済的混乱をも引き起こしかねない。食糧だけでなくビールなどへの影響もあるため、決してバカにはできないのだ。気候をおいそれと変えることができない以上、人間ができることは水が少ない場合に農業生産を継続する工夫だ。土木的なアプローチとしてダムや灌漑が考えられ、資本が潤沢にある沿岸部であれば海水の淡水化も一つの選択肢になるだろう。もう一つ、生物学的なア・・・