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連載

Book Reviewing Globe 419

仮想兵器が生み出す「非平和」状況

2019年4月号

 一九四〇年代、原爆を開発した科学者たちは、核の生物的、社会的、環境的な影響がどうなるかについて十分に見通せなかった。それが生物的にいかに恐ろしいものであるか、そして社会、制度、国際関係にいかに大きな影響を及ぼしたかを、世界はその後七十年以上かけて知ることになる。
 すでに仮想兵器(the virtual weapon)となってしまったサイバー空間もまた核と同様、将来、巨大なインパクトを社会と世界に与えることになるだろう。ジェームズ・スタブリディス前NATO最高司令官は、現段階でのサイバー空間の状況は未熟で、飛行機が登場した二十世紀初頭の段階にすぎないと述べている。その時、二十世紀半ばの戦略空軍を生み出すことを予見した人はいなかった。
 もっとも、サイバー空間それ自体は大国間の勢力均衡を根本的に変えることはないし、戦争の性格を変質させることもない。軍事力と異なり、それは戦争と征服の決め手にはならない。二〇〇七年のロシアのエストニアへのサイバー攻撃は甚大な打撃を与えたが、攻撃のきっかけとなったエストニア国内にあるソ連時代の戦争メモリアルを移設するという同国政府の決定を・・・