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連載

本に遇う 第237話

物言えば唇寒し夏の風
河谷 史夫

2019年9月号

 この夏、企画展「表現の不自由展・その後」中止を巡る新聞各紙の反応ぶりが、安倍政権との距離に反比例していて面白いと思った。
 言論機関なら「表現の自由」に過敏になるのは当然のことだ。中止を受けて八月六日、朝日新聞と毎日新聞はすかさず社説を掲げ、ともに事態の深刻さと危機意識の表明に同一の論陣を張った。七日、東京新聞の社説も「まさに『表現の不自由』を象徴する恐ろしい事態である」と歩調を揃えた。
 産経新聞の主張は逆で、憲法第十二条の「国民は憲法上の自由及び権利を濫用してはならない」を引き、展示内容は日本人へのヘイト(憎悪)行為だ、と断じて主催者に対して謝罪を要求した。
 一面から二面、社会面と展開した朝日、大々的に報じた毎日と東京。それに比して、終始冷淡だったのが読売新聞で、初報が第二社会面二段の扱い、愛知県知事による名古屋市長の「検閲」批判は第三社会面のベタであった。
「ガソリン携行缶持ってお邪魔」と脅した男が逮捕されたあとの九日、読売はやっと社説を出す。「想定の甘さと不十分な準備が、結果的に、脅迫を受けて展覧会を中止する前例を作った」と主催者を難・・・