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連載

本に遇う 第239話

政治家が貧困な国で
河谷 史夫

2019年11月号

 十年一昔という。思えば二〇〇九年の九月であった。うんざりしていた自民党から民主党へ政権が代わって、何か変化の兆しが見えたのも、今は昔の話である。
 民主党が掲げた「コンクリートから人へ」というスローガンは斬新だった。この秋、釜石の復興スタジアムにラグビー・ワールドカップの試合を見に行った経済評論家藻谷浩介が、毎日新聞に「結局は『コンクリートよりも人』が、人間社会の継続を支える基盤なのだ」という感慨を寄せていた。
 藻谷によると、スタジアムには三陸海岸に過剰投資で造成された防潮堤よりも意義がある。海岸の構造物は塩害で必ず腐食する。何十年に一度の津波襲来以前に残骸となるかも知れない。更新には莫大な金がかかる。しかも打ち込まれた基礎部分は山からの栄養分を含む地下水の還流をせき止めるから、地元の魚介養殖業への打撃は必至だ。だがスタジアムは、これを合宿や大会に活用すれば子供らがラグビー文化を受け継いでいくのに有用だというのである。
 魅力的なスローガンとは裏腹に、稚拙な政権はやたら官僚組織を敵視したり、お粗末な政治とカネ問題が露呈したりして馬脚を現し、そこへ大震災・・・