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経済

《クローズ・アップ》前田晃伸(NHK次期会長)

みずほ「迷走経営」の悪夢再び

2020年1月号公開

「『大きな混乱と内部抗争のタネをまいた実績』の間違いではないのか」。みずほフィナンシャルグループ(FG)幹部がこう皮肉る。
 NHKの次期会長に決まった前田晃伸みずほFG名誉顧問。経済界からの起用は五代続けてだが、金融界出身者は初めて。石原進NHK経営委員長(当時、JR九州相談役)は前田の選任理由について「メガバンクで大きな改革をしてきた実績があり、人をまとめる力、改革を推進する力がある」と述べ、その手腕に対する期待を示した。
 前田は今年一月で七十五歳。大分県出身で東京大学法学部卒業後、一九六八年旧富士銀行に入行。二〇〇二年から一〇年まで旧第一勧業銀行、旧日本興業銀行との三行統合で誕生したみずほグループのトップをつとめた。
 だが、前田時代のみずほは迷走に迷走を重ねた八年間だった。持株会社の下での旧三行再編直後に引き起こした大規模システム障害にはじまり、詐欺や横領など相次ぐ不祥事に、噴き出す幾多のスキャンダル。旧三行間の主導権争いと足の引っ張り合いに明け暮れ、業績は振るわず、まさに「統治不全の極み」(みずほOB首脳)とも言える、惨憺たる様相を呈した。
 一月二十四日付で退任する上田良一会長(三菱商事前副社長)を評して石原は会見で「(経営委員の間から)ガバナンスやコンプライアンス、コストの見直しなどに問題があるとの意見があった」と指摘したが、それはそっくりそのまま前田時代のみずほに巣食っていた病根に他ならない。それを何ら切除することなくむしろ猖獗させてきた感のある前田に、果たして総務省がNHKに求めている業務見直しなどいわゆる「三位一体改革」が実現できるのか。危ぶむ声は財界内部にも少なくない。
 政権との距離感に対する懸念も燻る。前田はJR東海取締役名誉会長の葛西敬之や富士フイルムHD会長の古森重隆らが主宰する、安倍晋三首相を取り巻く財界人親衛隊「四季の会」のメンバーだ。
 その安倍は政権に批判的な報道や番組にストップをかけられない上田会長の指導力に強い不満を口にしていたという。一時は続投も有力視されていた上田の一期三年限りでの退任と今回の次期会長の人選は、安倍の意向を忖度した菅義偉官房長官ら官邸と「安倍べったりのNHK幹部が結託して主導した」(関係者)とも言われている。
「権力を持った政権が報道機関からチェックされるのは当たり前。きちっとした距離を保つ。どこかの政権とべったりということはないし、その気もない」。十二月十日、東京・渋谷のNHK放送センターで会見した前田は、ことさら「公平中立」を強調してみせたが、会長らNHK役員の職務執行を監督する経営委員会は安倍シンパと“お友達”で溢れ返っている。まして「憲法改正と並ぶ安倍の隠れた悲願はNHKをコントロールすること」(事情通)とも取り沙汰されるなか、前田の双肩にかかる圧力はことのほか重くなるだろう。
 一九六四年から七三年まで九年間にわたってNHK会長をつとめた前田義徳は、その組織や放送センターをはじめとする設備の拡大充実を進めて「中興の祖」と謳われる一方、佐藤栄作首相ら時の政権との癒着ぶりは強い批判を浴びた。「もう一人の前田」はどんな道を選ぶのか。(敬称略)

 


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