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連載

現代史の言霊 第21話

一月の斬首 1979年(メッカ大モスク占拠事件) 
伊熊 幹雄

2020年1月号

 一九七九年
《私たちは今、破壊的な思想を壊滅させている最中だ》
ムハンマド皇太子(サウジアラビア)

 五年前の一月七日。正午の少し前、パリ中心部にある風刺週刊紙『シャルリ・エブドー』編集部では、年初の編集会議がなごやかに行われていた。そこへ二人の男性が乱入し、カラシニコフ銃の乱射で十二人を殺害した。
 犯人はアルジェリア系の兄弟だった。孤児院、街の愚連隊、刑務所を経由して、イスラム聖戦思想にたどりついた。二人は二日間逃走した末、パリ郊外の印刷工場に立てこもり、射殺された。
 編集部があったビルには今日、十二人の犠牲者の笑顔が壁に描かれている。あちこちの壁に、ラファエロやミケランジェロを模した追悼の絵。静かなニコラ・アペール通りは、まるで亡霊が棲みついたようだ。
推計で数千人が死亡
この亡霊の起源は、パリから約六千キロ離れた、サウジアラビアのイスラム教聖地、メッカまでたどることができる。
 シャルリ・エブドー事件からさらに三十五・・・

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