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経済

三井住友銀が融資先「裏切り」の非情

乾汽船「株買い占め」に加担

2020年2月号公開

「老舗の百年企業が時代の最先端に躍り出ている―」(大手証券幹部)。
 何やら威勢の良い話かと思いきや、中身は声を潜めて交わされる話である。創業から百十年強を数える東証第一部企業、乾汽船を舞台とするアクティビストファンド(物言う株主)との攻防戦が続いている。二〇一九年十一月四日には、アクティビストファンドの要求に基づいて、同社は臨時株主総会の開催にまで追い込まれた。
 乾汽船は、「神戸海運五人男」の一人として名を馳せた故・乾新兵衛が明治期に創業し、海運業華やかなりし高度成長期には光り輝いていた。しかし、そんな時代はとうに過ぎ去り、「歴史こそ古いものの、昨今は話題に乏しい企業の一社」と言われてきたのが同社である。そんなジミ線企業の株式を約二八%保有し、乾康之社長の取締役解任などの株主提案を行ったのが、アルファレオホールディングス(HD)合同会社という和製アクティビストファンドである。
 六月の定時株主総会の場で、配当増額を主張し、会社側が提案した買収防衛策の導入に反対して、一躍注目を集めた。その後、同社長の取締役解任、役員報酬の総額引き下げ、剰余金の配当、自社株買いといった、「アクティビスト四点セット」とも言うべき株主提案を行い、臨時株主総会の開催を求めていた。

三メガ勢ぞろいの異様な融資

 昨今、こうしたアクティビストファンドの動きは珍しいものではなくなり、しかも本件は東芝のような話題豊富な大企業を標的にしたものでもない。にもかかわらず注目を集めているのは、アルファレオHDというファンドが無名に近い存在だったという面がある。最近になってしばしば乾汽船株式の大量保有に関する訂正報告を提出し、次第にその名が知られるようになったアルファレオHDとはいかなるファンドなのか。登記などで追っていくと、「バッファロー」のブランド名で知られるIT関連製品を製造・販売しているメルコHDに到達する。
 メルコHDは創業一族の牧家のファミリー企業であり、事実、その株式の五〇%超を保有しているのが牧家の資産管理会社であるマキス社だ。アルファレオHDは、このマキス社が出資母体である。牧家は、創業者の牧誠氏が一八年四月に亡くなり、その後を子息の寛之氏が承継している。この寛之氏が実質的なオーナーであるのがアルファレオHDという構図だ。ちなみに、株式を直接的に大量保有しているのはアルファレオ株式会社となっている。
 牧寛之氏は大学卒業後、家業に就かず、海外の資産運用業などの世界に飛び込んだ、いわばインベストメントバンカーであり、二〇一一年になって、メルコHDの取締役に就任し、一八年には中核子会社のバッファローの社長に就いている。
 こうしてみると、製造業を母体とするファンドによる株式買い占めという、あまり例のない構図のようだが、実はこの一件ではもうひとつ、異例の事態が隠されている。その一端はアルファレオHD提出の乾汽船株式に関する大量保有報告書のある部分から垣間見えてくる。たとえば、アルファレオHDが臨時株主総会の翌日である一九年十一月五日に提出した変更報告書では、引き続き同社が乾汽船の株式を約二八%保有していることが表明されているが、そのなかで保有株式の取得資金の内訳が記載されている。
 具体的には、取得資金の合計額五十二億六千八百六十七万九千円のうち、自己資金は十二億六千八百六十七万九千円であり、残りの四十億円は銀行借入となっている。通常、アクティビストファンドの資金調達は資本市場に依存しており、銀行から借り入れた資金で企業の株式を買い占めるという話はめったにない。ところが報告書に明記された借入金の内訳によると、三菱UFJ銀行は二十億円、三井住友銀行十五億円、みずほ銀行五億円とあり、同報告書には「有価証券担保契約に基づき三菱UFJ銀行に対して三百七十万株、三井住友銀行に対し二百万株を担保として差し入れている」という一文まで記載されている。
 ここから浮かび上がってくるのは、三メガバンクが勢ぞろいでアクティビストファンドを資金面から支えているという図式にほかならない。ある外資系証券の幹部はこう指摘する。
「邦銀は資金需要の伸び悩みやマイナス金利政策に象徴される超低金利局面の長期化で苦しみ、企業向け融資の拡大に躍起になっている。あらゆる面で融資拡大に走っている事情は分かるが、ここまであからさまな動きは、さすがに理解に苦しむ」
 この幹部は、ファンドの資金調達で複雑なスキームを様々編み出してきた経歴を持っている。そんな人物が「あからさま」という表現を用いて驚きを隠せないほど、メガバンクによるアクティビストファンドへの融資は異様だということだ。

明らかな利益相反

 なかでも問題視されているのは、三井住友銀行だ。融資額は三菱UFJ銀行に次ぐ順位ではあるものの、三井住友銀行は株式を大量保有された乾汽船にとって、長年のメインバンクという立場にある。親密な関係にある企業の苦境につながることを承知で、株式を買い占める側に銀行が資金提供するというのは、道義的にみてもいかがなものか。この問題を三井住友銀行に問い合わせると、「個別取引先の質問についての詳細回答は差し控える」としながら、同行からの借入金の使途が乾汽船株式の取得のための資金と認識していると回答してきた。
 主要取引銀行と株主提案を続けるファンドの間には、誰でも簡単に分かる利益相反構造がある。株式大量買い付けの資金提供だと明言した三井住友銀行には、利益相反構造に直接的に関与することが、商行為上の危うさをはらんでいるという自覚が全くなさそうだ。
「同族経営の悪い部分が蔓延し、ガバナンスが利いていない」
 海運業界関係者は乾汽船の経営に、厳しい視線を向ける。アクティビストに狙われる企業の典型的なケースと言えるのだが、その一方でアルファレオHDの株式保有率は乾汽船が導入した買収防衛策が規定する株式保有額の上限にほぼ達した。さらなる買い増しは困難であるものの、他のファンドと歩調を合わせる協調保有となれば、事実上の支配権にまで到達することもあり得る。それもこれもアルファレオHDの目論見しだいであり、一説によれば「乾汽船が東京・勝どきに保有する、容積率に余裕がある不動産物件の売却益狙い」(証券業界関係筋)とも囁かれている。
 いかなる結果になるにせよ、アクティビストファンドの株式買収にメインバンクが資金面から手を貸すという、三井住友銀行の裏切りの所業が免罪されることはない。


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