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連載

本に遇う 第244話

メインテーマはコロナ
河谷 史夫

2020年4月号

 アンソニー・ホロヴィッツの推理小説『メインテーマは殺人』を開いて「コロシ」の迷宮で遊んでいたら、世の中のメインテーマは「コロナ」になっていた。
 ホロヴィッツが脚本を書いたテレビドラマ『刑事フォイル』は毎回見ていた。戦時中のイギリスはヘイスティングスで捜査に当たるフォイル警視正は魅力的だった。コナン・ドイルやアガサ・クリスティをこよなく敬愛するホロヴィッツには小説もある。「年間ベストテン」の類いに誘われ、去年は『カササギ殺人事件』、今年は『メインテーマは殺人』を手に取った。
 いい推理小説は絡繰りが明かされ、犯人が分かっても、すぐまた再読したくなる。杉江松恋の解説に「後で見返してみると、最も重要な情報が書かれている章は初読時にあっさりと通り過ぎてしまっていたことに気づかされる」とあるが、それが醍醐味なのだ。
 この小説にはホロヴィッツが出て来る。探偵に「おれの本を書いてくれ」と頼まれて作品を仕立てていく趣向だ。謎を解く鍵を作家が訊く。探偵がさらりとこう口にするくだりがある。「おれに訊く必要はないさ、相棒。あんたが見せてくれた、お粗末な第一章に書いてある。・・・