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連載

《世界のキーパーソン》アレックス・アザー(米保健福祉長官)

姿を消した米国の医療行政指揮官

2020年4月号

 世界中で今、自国の厚生大臣(保健相)の姿を見ない日はまれだろう。米国ではアザー保健福祉(厚生)長官の姿が、久しくニュースから消えている。ドナルド・トランプ大統領の下で、「タスクフォース」を率いるのは、マイク・ペンス副大統領。メディアに語るのは、もっぱらジェローム・アダムス公衆衛生局長。大統領の記者会見でも、「お付き」の間に姿を見せることがなくなった。
 大統領に逆らったわけではない。それどころか、アザーは「大統領に嫌われることを心から恐れていた」(在ワシントン米紙政治部記者)という。二月後半から三月初めにかけては、新型コロナウイルス対策の指揮官として、「政府は事態を掌握している」と繰り返していた。トランプ大統領の立場を非常に忠実に代弁していたのだ。
 姿を見せなくなった日から、米メディアでは「外された」との臆測が出た。だが、大統領はわざわざ「それはフェイクニュースだ。彼は大変立派な仕事をしている」と打ち消した。中世の宮廷さながらに、大統領の気分で目まぐるしく「寵臣」が入れ替わる、トランプ政権ならではのミステリーだ。
 代わって、複数の「保健福祉省高官」が・・・