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経済

京浜工業地帯から 「高炉」が消える日

日本鉄鋼産業の静かなる老衰

2020年6月号

 戦後日本の復興から高度成長を牽引した鉄鋼産業が、遂に坂道を下り始めた。きっかけは新型コロナウイルス感染による国内鉄鋼需要の劇的な落ち込みだが、素材間競争による鉄離れ、造船はじめ国内の需要家産業の衰退、中国・韓国の鉄鋼メーカーの追い上げといった構造要因がある。もはや高付加価値、高品質では盛り返せない段階に入った。日本全国で稼働していた二十七基の高炉は数年内に三分の一が「休止」という名の廃炉に向かう。それは日本産業の進化、新展開につながるのか、さらなる劣化、没落につながるのか。戦後日本産業の総決算が鉄から始まった。
 首都高速湾岸線を都内から西に走り、羽田空港の真ん中を突き抜け、横浜に向かうと数分後には左側に建屋から煙突、パイプ類まですべてが赤褐色にくすんだ巨大な工場群が姿を現す。JFEスチール東日本製鉄所京浜地区工場である。と言われてもピンと来ない人には、旧日本鋼管(NKK)の京浜製鉄所と言えばわかるだろう。埋め立て人工島である扇島の過半を占め、一九六八年の操業開始から首都圏の鉄需要を支え、日本を代表する製鉄所となった。
 三月末、JFEは京浜地区で稼働中の唯一の二・・・