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連載

日本の科学アラカルト 120

進化を続ける「粒子線治療」 イオンビームで癌細胞を攻撃

2020年8月号

「新型コロナウイルスが収束した後に、癌での死亡者数が増加する可能性は高い」
 関東の癌専門病院の医師はこう危惧する。新型コロナの収束がいつになるかは見通せないが、この間、他の診療科を訪れる患者数が激減している。病院での感染を避けたいという心理が働いていることが原因であり、健康診断の受診も減っているという。つまり、本来ならば今年見つかっているはずだった癌患者の一部について発見が遅れることになる。癌のステージが進めば進むほど、治療や延命の可能性が低くなるが、どれほどの影響が出るのかは正確なデータもないため推測さえできない。
 新型コロナ対策が医療界の喫緊の課題であることは言うまでもないことだが、コロナ禍の最中にあっても日本人の死因第一位は癌であり、毎年約三十七万人が亡くなっているのである。
 癌の治療研究といえば医学の分野だが、化学や物理の出番もある。治療法として手術療法以外に、化学(薬物)療法や、放射線治療があるためだ。放射線治療は「物理療法」とも呼べるが、いわゆるX線治療が思い浮かぶだろう。
 体内の細胞に悪影響を与えるというネガティブな印象があ・・・