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WORLD

醜い欧州の「ワクチン狂乱」

統合と協調の精神はズタズタに

2021年3月号

 新型コロナウイルスのワクチン戦略を巡る欧州連合(EU)の迷走ぶりがはなはだしい。ワクチン接種が思うように進まないなかで、EU執行部への批判や加盟国同士の確執が強まり、あげくの果てには「欧州ファースト」とも言える輸出規制まで始めた。ワクチン戦略にはコロナ危機を奇貨として権限強化を図るEUの官僚機構としての野心も透けるが、ちぐはぐな説明や対応により、信頼と求心力は失われていくばかりだ。
 EUは昨年十二月下旬に米製薬大手ファイザーと独バイオテクノロジー企業ビオンテックが共同開発したワクチンを承認し、加盟各国で接種が始まった。フォン・デア・ライエン欧州委員長は「ワクチン接種は困難な年を終わらせ、新型コロナウイルス(との戦い)の新たなページをめくる」と高らかに宣言し、EUが支援した独企業らによるワクチン開発は「ヨーロッパのサクセスストーリー」だと自賛していた。
 しかし、一カ月足らずで楽観ムードは暗転し、米国や英国に比べて「接種ペースが遅すぎる」との批判が噴出した。多くの加盟国が準備不足などで接種キャンペーンの滑り出しに失敗したためだ。ただ、出遅れの根本的な原因は、そもそ・・・