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社会・文化

蘇れ「夜行列車」に待望論

スローな旅が世界で再評価

2021年7月号

 今から六年前の平成二十七年三月十三日午後七時過ぎ。長距離列車が発着する上野駅地平ホームは、カメラを手にした男たちの異様な熱気に包まれていた。女性はほとんどおらず、その数なんと三千人以上。
 札幌へ向けブルートレイン「北斗星」が出発する最後の雄姿を一目見ようと、全国各地から鉄道ファンが押し寄せたのだ。
 昭和三十三年、東京・博多間の「あさかぜ」に投入された二〇系客車が青色に塗色されていたことから後にブルートレインという愛称で一世を風靡した夜行寝台客車列車は、ここに終焉を迎えた。現在、全国唯一の定期夜行列車も電車で運行されている東京と出雲市、高松を結ぶ「サンライズ出雲・瀬戸」だけ。
 上野駅を埋め尽くすほどのファンがいるにもかかわらず、運行をやめてしまうのは普通の商売人なら「もったいない」と存続させるところだが、JRにはJRの大人の事情がある。
 国鉄時代から夜行列車は、新幹線網の整備や飛行機の大衆化、高速道路を使った長距離夜行バスの登場によって後退しつつあったが、国鉄分割民営化が衰亡を決定づけた。
 多くの夜行列車は、JR各社をまたいで・・・