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社会・文化

世界が評価する日本の「自然農法」

仏高級ワインにも影響与える「福岡正信」

2021年9月号

「福岡正信」という名前に聞き覚えがあるだろうか。農業やワインの専門家でもない限り、知らないだろう。国内で知られていないのに、海外で大きな影響力をふるう日本人は、様々な分野にいるが、ワインの世界での福岡氏がそれに当たる。有機栽培を駆使する自然なワインの造り手の間に浸透している。
 一九一三年、現在の愛媛県伊予市の生まれ。横浜税関の植物検査課で研究をしていたが、地元に帰り、農業を営みながら自然農法の研究を進めた。その特色は農地を耕さずに種や苗を植える不耕起、無肥料、無農薬、無除草が挙げられる。有名なのは粘土団子という手法だ。多くの植物の種を粘土や堆肥と混ぜた団子をまくと、自然に発芽するというもの。インド、タイ、ギリシャなどを訪れて現地の農民を指導し、砂漠の緑化に役立てた。彼の哲学の柱の一つが、「楽農」と呼んだ省力農法にある。粘土団子はそれを象徴している。色々な種を集めた団子をまくと、土地の環境に合わせて発芽し、根を張る。お金も手間もいらない。耕さず、肥料や農薬などの対処がいらない“引き算の”自然農法の本質が集約されている。

シャンパーニュのカリスマも信奉・・・