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政治

《罪深きはこの官僚》荒井勝喜(首相秘書官)

半導体「逼迫」を招いた 張本人

2021年12月号公開

 経済産業省の官僚たちが再び官邸で蠢きはじめた。首相、岸田文雄の筆頭秘書官を務める元経産次官の嶋田隆と共に官邸入りを果たしたのが、同じ秘書官を務める荒井勝喜だ。直前まで電機業界を所掌する商務情報政策局長を務めていた荒井は、半導体分野に深く関与してきた官僚である。台湾の半導体メーカー、TSMCが日本進出を決める過程では、経産省がソニーやデンソーとともに、誘致に動いた。この舞台裏を半導体業界の関係者が語る。
「経産省からのリークで、『TSMCの日本進出が近い』という報道が繰り返されてきた」
 自動車をはじめとする日本の産業界は目下、半導体不足という危機に直面している。では、TSMC誘致に成功した荒井らは讃えられるべきなのか。前出の業界関係者は「日本の半導体メーカーの凋落を招いた責任は経産省にある」と指摘する。
 象徴的なのはエルピーダメモリの破綻だ。二〇〇九年、経産省は産業活力再生特別措置法の適用第一号としてエルピーダに融資を決めたものの、一二年に破綻するまで「結局なにもしなかった」(前出業界関係者)のである。経産省は半導体産業を守るポーズを見せただけだった。この年に情報通信機器課長に就いた荒井は、やはり経営難に陥っていたルネサスエレクトロニクス問題に介入する。米投資会社による買収に「待った」をかけて、トヨタ自動車などを巻き込んだ官民連携での支援フレームを作った。エルピーダは見殺しにしてルネサスは守る。一貫したポリシーはなく場当たり的対応に終始し、「産業のコメ」を守る気概も覚悟もなかった。
 経産省のこうした姿勢は二十年前から変わらない。かつては同省が主導した先端半導体開発を目指す国家プロジェクトが乱立した。一社だけでなく、業界全体に経産省が予算をつけることで、天下り先を確保できるからだ。この間、日本の企業は大型コンピュータ向けの高価な半導体ばかりを作り続け、世界から取り残されていった。その後、ほぼ全てのプロジェクトは失敗に終わった。結果、十年ほど前には「経産省では半導体を担当したがる若手がいなくなった」(前出業界関係者)という。
 永田町、霞が関界隈では、荒井が商務情報政策局のトップに就いたこと自体を疑問視する声もある。荒井は、経産省が東芝の大株主に圧力をかけた問題で渦中にいた人物。調査報告書の中で、東芝の社長だった車谷暢昭と頻繁に連絡を取り合っていたと指摘されている。
 TSMCの誘致についても、手放しで喜べない事情がある。経産省側が足元をみられたため、TSMC側の要求が大きくなり、四千億円もの支援を引き出された。しかも、TSMCの工場ができたからといって、日本の半導体産業が育つわけではない。経産省は国内メーカーへの支援も計画しているが、需要の少ないパワー半導体を重視するなどピントがずれている。将来を見据えた「スタートアップ支援策が出ないのがおかしい」(前出業界関係者)との声も聞こえる。
 経産省の半導体政策の中心にいた荒井は現在、官邸で岸田の演説原稿を書いているという。「安倍晋三政権時代の秘書官、佐伯耕三のようなポジション」(政治部記者)で、経産省寄りの政策を次々に盛り込んでいる。荒井が中心にいる限り、日の丸半導体が復活する芽はない。(敬称略)


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