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連載

本に遇う 第266話

アベノヒトリズモウ
河谷 史夫

2022年2月号

 同じように一国の首相を辞めても、それからが人によって異なるのは面白い。それまでどう生きて来たか、持って生まれた性分、くぐった体験、読書歴、作り上げた思想、判断力―畢竟その人の人生観が決めるのであろう。
 ドイツの首相を十六年務めて政界を引退したメルケルは「どんな政治的ポストにもつかない」と言明したそうである。「どこかの国の元首相が国会議員に居座って影響力を行使しようとするのとは違い、本当に爽やかな幕引きである」と、暮れの朝日新聞のコラム「経済気象台」で読んだ。さらにまた「首相として一本筋の通った考え方を貫いたこと」を称賛していた。
 講演録『わたしの信仰』に「問題は政治や経済以上に精神的な価値観にかかっている」とあるのを引き、メルケルは「政治や経済の論理よりも、人として欠いてはならない価値観を大切にし、最も弱い立場にある人々や次の世代に寄り添った」と述べ、「内外の批判をものともせず、中東からの難民の受け入れを断行した姿」にこの言葉を重ねて見ている。
 そして彼女がドイツを「欧州一番の隆々たる国」に成長させたことを評価し、日本を顧みて言う。「歴代首相は成長・・・