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連載

皇室の風 第163話

天皇家の執事Ⅰ
岩井 克己

2022年3月号

 渡邉允元侍従長が二月八日死去した。享年八十五。
 学習院初等科、日比谷高校から東大法学部を卒業して外務省入りし、駐ヨルダン大使、中近東アフリカ局長、儀典長などを歴任して宮内庁へ。式部官長を一年間経験したあと平成八(一九九六)年から同十九(二〇〇七)年まで十年半にわたり侍従長を務めた。
 若くから米国勤務なども重ねた国際派だが、曾祖父千秋は明治天皇の最後の宮内大臣、父の昭は昭和天皇の幼時から終生の「お学友」という旧伯爵の家柄。保守とリベラルの美徳を兼ね備えたようなバランス感覚は天皇、皇后(現上皇夫妻)の厚い信頼を得た。
 常に夫妻で多彩な活動を展開する平成流や、中国訪問に反発した保守派の激しいバッシングで平成五年に皇后が倒れたあとの危機的な時期。脳こうそくで倒れた山本悟侍従長の後を引き継ぎ、孤立感を深めていた平成の皇室が態勢を立て直し、存分に持ち味を発揮できる大きな支えとなった。
 場をやわらげる温和な人柄。国内外の儀式、行事の表舞台でも、常に天皇に随従する長身のたたずまいは品格があり絵になった。歴代でも「名侍従長」の一人に数えられるだろう。{b・・・