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経済

楽天は「破滅」を回避できるか

近づく資金繰り「どん詰まり」

2023年3月号公開

 剣が峰―。巨額赤字を連発する楽天の資金繰りは、奈落に沈むかどうかの、瀬戸際に立たされた。
 二月に発表された楽天の二〇二二年十二月期の決算は、最終損益が三千七百二十八億円の赤字に沈んだ。楽天市場などのインターネットサービス部門と、楽天証券などの金融部門の利益をモバイル部門の四千九百二十八億円の赤字が吹き飛ばした。足を引っ張るモバイル事業での設備投資は二三年度も続く。すぐ資金が枯渇するわけではないが、危機は三木谷浩史会長兼社長の背後にひたひたと迫る。

「モバイル事業」の実力が露わに

 三木谷氏の視線の先に待ち受けるのは巨額の社債償還だ。二四年には、十七億五千万ドル分と、一千五十億円分の無担保社債が償還期限を迎えるが、今の楽天にはとてつもない負担。三木谷氏はこれまで、社債を打ち出の小槌のように駆使してきた。個人向け社債を出せば、知名度を背景に個人投資家がいくらでも飛びついてきたからだ。財務の悪化とともに利率が上昇した楽天債は、低金利時代の個人投資家にとっては魅力に映った。今年二月十日にも二千五百億円の個人向け社債を発行したが年利は三・三%に上る。
 だがその神通力にも陰りが出そうだ。格付投資情報センター(R&I)は二月に楽天グループの発行体格付けを格下げ方向のレーティング・モニターに指定した。今の格付けはシングルAマイナス。もはやA格から転落するのは時間の問題にも見える。怯え始めたのが社債を売りさばく証券会社だ。大手証券会社幹部が語る。
「さすがにB格の個人向け社債をしゃあしゃあと高齢者に売りつけるわけにはいかない。万が一の時には、こっちの信用問題に関わる」
 この状況下で、楽天グループに接近を図っているのが三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)だ。傘下の銀行、証券会社が楽天に触手を伸ばそうとしている。あるMUFG幹部は「楽天はまだまだ資金調達が続く」と断言する。
「社債だけでなく劣後債や優先株もあるだろう。巨額償還に合わせて楽天の資金調達に絡めれば、どれだけ収益が見込めるか」
 楽天のメインバンクはみずほ銀行だが、すでに融資も嵩んでおり、これ以上の貸し込みについては慎重にならざるを得ない。3メガバンクグループのうち最もつきあいが薄かったMUFGだからこそ、今の楽天に接近するのである。「腐りかけのものは美味しい」(MUFG関係者)との声も聞こえるが、「腹をこわしかねない」(業界紙記者)との指摘も出ている。
 無論、三木谷氏の焦りも募る。楽天銀行や楽天証券の株式を換金しようと躍起だが、楽天銀行は新規上場のメドがたたない。なりふり構わぬ三木谷氏は米投資ファンドのKKRにも泣きついたとされる。焦点は楽天が保有する大手スーパー、西友の株式だ。
 西友の株主構成はKKRが六五%、楽天が二〇%、米ウォルマートが一五%だが、楽天は保有する株を手放す構え。西友は非上場のため時価評価は難しいが、楽天の保有分を売却できれば少なくとも「数百億円の足しにはなるだろう」(前出証券会社幹部)。焼け石に水と言うほかない。楽天のネット部門関係者が不満を漏らす。
「今年も三千億円規模の設備投資が必要になると報道で見た。本当にモバイルは利益を出せるようになるのか」
 いくら借金を重ねようが、モバイル部門が稼げるようになれば問題はない。二二年十二月期決算で楽天は、「開設済み基地局が五万二千局に達し、目標の約六万局まで残り一五%に到達している」とアピールし、「人口カバー率が九八%になった」ことを誇った。基地局設置については二三年中に目標を達成することを意味しており、「今後は回収フェーズだ」と言いたいのだ。しかし他の携帯キャリアの幹部は「現実は甘くない」と指摘する。
「これまでは『設備投資で赤字になった』という言い訳が通用したが、来年以降は単純に稼ぐ力が問われる」
 そうなると鍵を握るのは「数」だ。楽天モバイルの契約件数は昨年十二月時点で五百六万件(格安SIM含む)。これは同年九月の五百十八万件から漸減だ。同年七月の「ゼロ円プラン廃止」による減少傾向はいまだに続いている。
「ゼロ円プラン」で契約者数を四百万人以上かき集めた楽天は、同プラン廃止の影響を限定的と説明している。また、「解約者の数は想定よりも少なかった」と解説する報道も見受けられる。しかし、楽天モバイルが今年中に契約者数を大幅に積み増しすることは不可能。五百万人程度のユーザーからの稼ぎは、たかが知れている。
 一契約あたりのキャリアの収入を示す「ARPU」が厳しい現実を突きつける。楽天のARPUは昨年十二月時点で一千八百五円。ゼロ円プランを実施していたときは一千円にも満たなかったため「改善」にも見える。
 しかし楽天のARPU一千八百五円、契約件数五百六万件に対し、携帯キャリア業界三位のソフトバンクのARPUは約三千八百円、契約件数は約四千七百万件。収益の差は歴然としている。

「楽天経済圏」も瀬戸際

 いわゆる「楽天経済圏」を同社の強みととらえる向きはある。一人のユーザーが楽天市場で買い物をして、楽天銀行に口座をつくり、楽天カードで決済する。この中にモバイル契約者を組み込めるのだ。
 ただその柱の一つであり、祖業でもある楽天市場の雲行きは怪しい。いつまでも「アマゾンの後塵を拝している」(経済誌記者)ことに加え、社内の状況もよくない。長らくキーマンだった矢澤俊介氏は昨年三月に楽天モバイルの社長に就き、河野奈保氏もモバイルの常務執行役員となっている。
 そしてこの二人が抜けた楽天市場のトップはトヨタ自動車出身の武田和徳氏が務めている。武田氏は「三木谷氏とハーバードで同期のよしみで引き立てられたという以外、これといった結果を残していない」(同前)。同氏が楽天モバイルの副社長から外されていることをみても、能力は推して知るべしである。
「楽天経済圏」も今や砂上の楼閣だ。市場、カード、銀行など個別事業は魅力的で、実際にみずほ銀行などは証券に接近している。興味深いのは、SBIホールディングスを率いる北尾吉孝氏が「楽天経済圏に興味津々」(SBI関係者)という話だ。プライドの高い三木谷氏が北尾氏からの救いの手を受け入れる可能性は低そうだが、背に腹は代えられない。かつて孫正義氏のソフトバンクにいた北尾氏が「三木谷氏に与するとなったら面白い」(某メガバンク関係者)との声も聞こえる。
 本来は競合相手であるNTTドコモやKDDIも、「楽天市場と提携できるなら手を差し伸べてもいい」(KDDI関係者)と見ている。このまま資金に窮すれば、「楽天解体」や「三木谷帝国崩壊」さえ視野に入る。 


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