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経済

《クローズ・アップ》安永 竜夫(三井物産会長)

子会社「猛毒事故」でも能天気

2023年9月号

 一千基の貯水タンクが並ぶ東京電力の福島第一原子力発電所―。八月二十日、視察した防災服姿の首相・岸田文雄は神妙だった。
「私自身も漁業者の皆さんに直接、政府の考えを伝えたい」
 言うまでもない、原発処理水の海洋放出をめぐる信頼醸成への発言である。岸田は翌日、全国漁業協同組合連合会の会長・坂本雅信と面会、八百億円の基金による風評被害対策を説明し、改めて環境への影響は「無視できる程度」とした国際原子力機関(IAEA)の評価を強調した。その甲斐はあったか、漁業者の多くは「理屈では分かっている。でも、放出してほしくない」という反応だ。
 いや、同じ時期、理屈でも許せない事態が北海道蘭越町では起きていた。三井石油開発が地熱発電の掘削調査中に起こした蒸気噴出事故である。高さ百メートルに達した蒸気の柱には高濃度のヒ素が含まれており、農業用水を含む河川に流れ込んだ。現場へ弁当を配達していた女性が硫化水素中毒と診断され、体調不良者は十六人に及ぶ。が、三井石油開発は当初、その事実を公表しなかったのだ。
 社長の原田英典は「事故との関係を特定できなかった」と弁解、これ・・・

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