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連載

皇室の風 第180話

内匠の智恵
岩井 克己

2023年9月号

神仏分離に乗り出した維新政府の神道復古派は明治四(一八七一)年、御所の仏間「御黒戸」の念持仏や位牌なども泉涌寺に引き取らせた。また同寺の霊明殿を歴代天皇の位牌堂と明確に位置づけて、他所に散在していた歴代の尊牌も結集させた。
 ところが、同十五年には同寺は大火により主要建物を焼失する事態が出来し、明治政府は直ちに宮内省内匠寮の技師たちを東京から派遣して焼亡建物の再建に乗り出した。とりわけ霊明殿は広場を隔てて月輪陵墓地と互いに向き合う位置に配し、ひと回り大きな規模で重厚な威容を示す。道教や儒教でいう死者の「魂魄」が、火葬された歴代天皇の九重石塔が並ぶ月輪陵と、依り代の木主の如く尊牌が並ぶ霊明殿とに宿り、対になっているようにも、分け隔てられているようにもみえる。そして霊明殿の内部は儒教の霊廟を思わせるかのように内々陣、内陣、外陣に三分された。
 施工にあたったのが、宮内省の和風建築の第一人者で、後に皇居の明治宮殿(明治二十一年完成)や宮中三殿など主要な建物造営の中心となった木子清敬だ。弘化元(一八四四)年に京都で生まれ、明治四年に明治天皇の大嘗祭にあたって東京に移住し、同・・・

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