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連載

をんな千一夜 第98話

長谷川 テル 戦争が生んだ「革命烈士」
石井 妙子

2025年5月号

 アメリカ大統領のひと言に世界中が右往左往している。
 それぞれの国が自国の利益を優先し、移民排斥の動きが進む。ウクライナでもガザでも戦争は終わらない。世界はひとつ、という言葉も近頃、耳にしなくなった。
 エスペラント語という人工言語がある。帝政ロシア領に生まれたユダヤ系ポーランド人の眼科医ザメンホフが世界共通の言語を作りたいと考え生み出した。
 ザメンホフが生まれたポーランド北東部では、ロシア人、ドイツ人、ポーランド人、ユダヤ人が雑居しており、言葉が通じないことから生まれる偏見や誤解から、争いや対立が絶えなかったという。
 多民族が平和に共存する社会を求めるという思想がエスペラント語の根底にはあり、ヨーロッパの労働者階級から、中国や日本にも伝播し、主にアナキストたちの間で流行した。
 長谷川テルは、「世界共通語で平和を目指す」という理念を貫いたエスペランティストで、日中戦争下に中国で日本の軍国主義を批判したことでも知られる女性だ。
 昭和13(1938)年、中国の漢口では日本軍による攻撃が激化していたが地元の漢口ラジオ放送局・・・

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