三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

本に遇う 第305話

まつろわぬ者たちよ
河谷 史夫

2025年5月号

 権勢者はまつろう者どもに囲まれ、「御意」「御意」の声しか聞こえないとは、ドラマ『ドクターX』をはじめ古今東西おなじみの図だ。世界を弄ぶトランプ王国も同様かと案じていたら、そうでもない動きが伝わってきた。
 ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンが、トランプの打ち出した「相互関税」を真っ向から「狂っている」と批判したそうである。関税引き上げの矛盾と根拠の曖昧さを突いて、「どこからそんな数字がでてくるのか」と疑義を呈し、「支離滅裂」とこき下ろした。ゴマスリで固めた体制の危うさも指摘しているというからさもありなんと思った。
 ただし見通しは明るくない。クルーグマンによれば、すべてはトランプが直感でやっていることで、政権内に「計画を考案できる知識や独立性を持った人間」はいないらしい。関税が長引き、インフレが再燃し、有権者の反発で撤回を余儀なくされるとの見方があるが、ゴマスリ連中は事実を伝えないであろうというのである。
 トランプによる米国社会の変調を如実に感じたのは、大統領選挙中だった。わたしなどはあの国の新聞が選挙で旗幟を鮮明にすることを羨ましく思ってい・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます