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社会・文化

害獣「蝦夷鹿」とどう向き合うか

ジビエ流行と北海道の「限界」

2025年5月号

「これはうまい」。表面はクリスピー、中はジューシー。最上級のビーフステーキに肩を並べる肉のうまみが味わえる、エゾシカのロースステーキ。
 東京某所のジビエレストラン。シェフは力説する。「北海道で専門のハンターに頼んで送ってもらっています。ジビエは撃った直後の処理が大事ですから」。
 野生の鳥獣を食すジビエは、珍しいとか、ヘルシーだとかの理由だけではなく、「本当にうまい」と静かに広まりつつある。
 全国的な野生動物の増加の中でも、エゾシカの急増は群を抜いている。戦後まもなくは全く姿を見せず、絶滅すら心配されたが、昭和30年代から復活の傾向が見え、2023年には生息数が700万頭、捕獲数16万頭という数になった。
 かつては「もみじ」と呼ばれて親しまれたシカ肉だが、最近は徹底的な衛生処理をした高級食肉としての流通がようやく軌道に乗りつつある。
 ある専門ハンターがこう語る。「高級ジビエ向けの狩猟は、時間との闘いだ」と。
 車や徒歩で牧草地や林の縁を探し回る。最近のシカは銃の怖さを知り、逃げ足は速い。発見したら、まず回収が容易な場所・・・

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