大往生考 第69話
癒やしがたい「誤診」
佐野 海那斗
2025年9月号
理不尽な運命を、受け入れるのは難しい。医師をしていると、それを痛感する場面に、しばしば遭遇する。最たるものが「誤診」だ。ミスに直面した患者と家族の受け止め方は、人それぞれだ。
その患者は70代半ばの男性だった。中小企業の経営者で、健康管理には人一倍気を配っていた。粗食を心がけ、毎日7千歩の運動を欠かさない。高血圧は元医学部教授の主治医から処方された薬で管理していた。さらには毎年欠かさず、がん検診を受けていた。なのにある日、進行した腎臓がんと診断された。周囲のリンパ節や骨にも、すでに転移が及んでいた。
発端は血尿だった。尿にわずかな血が混じっていることに気づいた患者が主治医に相談したところ、大学病院の泌尿器科を紹介された。精密検査の結果、前述の診断となった。
患者は、納得がいかなかった。9カ月前にPETとMRIを含むがん検診を受け、「異常なし」と告げられていたからだ。わずか9カ月で進行がんになるとは考えにくく、見落としの可能性が高い。
彼は検診の画像を取り寄せ、泌尿器科医に見せた。医師は「肺と骨は判断できませんが、腎臓には今にしてみると怪・・・
その患者は70代半ばの男性だった。中小企業の経営者で、健康管理には人一倍気を配っていた。粗食を心がけ、毎日7千歩の運動を欠かさない。高血圧は元医学部教授の主治医から処方された薬で管理していた。さらには毎年欠かさず、がん検診を受けていた。なのにある日、進行した腎臓がんと診断された。周囲のリンパ節や骨にも、すでに転移が及んでいた。
発端は血尿だった。尿にわずかな血が混じっていることに気づいた患者が主治医に相談したところ、大学病院の泌尿器科を紹介された。精密検査の結果、前述の診断となった。
患者は、納得がいかなかった。9カ月前にPETとMRIを含むがん検診を受け、「異常なし」と告げられていたからだ。わずか9カ月で進行がんになるとは考えにくく、見落としの可能性が高い。
彼は検診の画像を取り寄せ、泌尿器科医に見せた。医師は「肺と骨は判断できませんが、腎臓には今にしてみると怪・・・