本に遇う 第309話
新聞人ブラッドリー
河谷 史夫
2025年9月号
ベン・ブラッドリーの自伝が出たのはこの春だったが、菊判2段組で556頁という体裁に臆して手を出せずにいた。酷暑の夏、意を決して開いた。
『ワシントン・ポスト』の編集主幹ブラッドリーといえば、新聞と調査報道が燦然と輝いた20世紀の後半に新聞の世界にいた者には忘れられない名前である。調査報道とは、権力の腐敗を新聞が自力で調べ、自社の責任において記事にすることを言う。
政府は嘘をつく。しかも嘘を隠蔽して認めようとしない。ブラッドリーは時のニクソン政権と自他の存亡を賭して対峙し、政府の嘘を暴くことが新聞の重要な仕事だということをやり遂げた新聞人として記憶される。
1921年生まれのWASP(白人のアングロサクソン系新教徒)でハーバード大学を出たボストン・エリートが、駆逐艦乗りの海軍士官を経て新聞記者になり、サツ回りからやがて運命的に『ワシントン・ポスト』の筆政を担った。新聞にすべての情熱を注ぎ込んだという男の回顧録は「すばらしき人生」と題されている。
「私の人生で最も重要な出来事の多くは、偶然に起きているように思う」。14歳で罹ったポリオを運よく克・・・
『ワシントン・ポスト』の編集主幹ブラッドリーといえば、新聞と調査報道が燦然と輝いた20世紀の後半に新聞の世界にいた者には忘れられない名前である。調査報道とは、権力の腐敗を新聞が自力で調べ、自社の責任において記事にすることを言う。
政府は嘘をつく。しかも嘘を隠蔽して認めようとしない。ブラッドリーは時のニクソン政権と自他の存亡を賭して対峙し、政府の嘘を暴くことが新聞の重要な仕事だということをやり遂げた新聞人として記憶される。
1921年生まれのWASP(白人のアングロサクソン系新教徒)でハーバード大学を出たボストン・エリートが、駆逐艦乗りの海軍士官を経て新聞記者になり、サツ回りからやがて運命的に『ワシントン・ポスト』の筆政を担った。新聞にすべての情熱を注ぎ込んだという男の回顧録は「すばらしき人生」と題されている。
「私の人生で最も重要な出来事の多くは、偶然に起きているように思う」。14歳で罹ったポリオを運よく克・・・