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日本の科学アラカルト 181

画期的な医薬品に化ける 「有機フッ素化合物」の可能性

2025年9月号

 近年、「有機フッ素化合物(PFAS)」という物質が騒がれるようになった。最近になって出現したかのようだが、PFAS自体は19世紀から人類が合成し始めたもの。報道が先行したことで、得体の知れないイメージが先行しているが、PFASはさまざまな分野で活用する可能性を秘めた物質だ。
 原子番号9の「フッ素(F)」は、かなり特殊な元素である。サイズが水素の次に小さいほか、全元素の中で最も大きな電気陰性度で知られている。これは他の原子と結びつく際に、電子をいかに引きつけるかを示す数値。こうした特長から、フッ素を含んだ化合物は特殊な性質を示すことが多い。
 ただ、フッ素は地球上で比較的ありふれた元素でありながら、自然界ではほとんどが、地殻中の蛍石や氷晶石のような無機物中に存在する。つまり炭素(C)を含む有機物内にはほとんど存在しない。これは生体内などで、C-F結合が生じにくいことに由来する。一方で、C-Fが一度結びつくと、その結合は極めて強固で簡単には離れない。
 最も早く人類が使い始めたPFASは、いわゆる「フロン」だ。米ゼネラルモーターズが開発したフロン12は、ひ・・・

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