トヨタ「下請けいじめ」は不治の病
公取勧告も意に介さぬ「倫理喪失」
2025年12月号公開
「我々は下請けではなく、仕入れ先さんと呼ぶ」「常に共存共栄と相互繁栄を心に持ちながら活動を進めている」……。部品メーカーとの取引に対し、これまで大層立派な言葉を並べ立ててきたトヨタ自動車の、「下請けいじめ」が公式に認定された。トヨタの完全子会社であるトヨタ自動車東日本が、下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当する行為が認められたとして、公正取引委員会から勧告を受けたのだ。これに部品メーカーからは「やっとトヨタの悪行が白日の下にさらされた」と、怒りと安堵の入り交じった声が聞こえてくる。
トヨタ東日本は「ヤリス」や「カローラ」といった人気車種の生産拠点。別会社の形を採ってはいるものの、実質的にトヨタの小型車事業を担う部門である。これまで世間から投げ掛けられた「搾取」や「下請けいじめ」といった言葉をことごとく否定してきたトヨタだが、それが真っ赤な嘘であることが、国の当局によって暴かれたというわけだ。
トヨタ東日本が犯した違反行為は二つある。一つは金型の無償保管であり、もう一つは部品の受領拒否および無償保管だ。トヨタに忖度する新聞やテレビといった大メディアは表層的にしか扱わないが、「両方とも極めて悪質と見なすべき事案」(自動車業界に詳しい経営コンサルタント)である。
違反はすでに4社目
なぜなら、まず金型の無償保管は既に産業界で広く知られている違反行為だからだ。取り締まりを強化している公正取引委員会は、2023年3月に初めて企業名を挙げて違反行為への勧告を行った。以降、20社以上に勧告してきたが、違反状態をいまだに放置しているコンプライアンス軽視の日本企業は少なくない。「トヨタよ、おまえもか」というわけである。
いや、この問題に対するトヨタのコンプライアンス軽視は重症というべきだ。その証拠に、今回のトヨタ東日本への勧告は、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、中央発條、フタバ九州に次いでトヨタ系企業で4社目。ここにトヨタが金型の無償保管をいかに軽視しているかが表れている。
さらに悪質なのが、トヨタ東日本が行ったもう一つの下請法違反である部品の受領拒否および無償保管だ。下請け企業にまとまった数量の部品を生産させておきながら、その支払いは自社の調達の都合を優先して遅らせていたからである。
トヨタ東日本は量産が終了して補給部品を生産する体制に移った後、経過年数と生産量の条件次第で「一括生産部品」の契約に入っていた。車両の故障時などに必要となる補給部品は数量が極めて少ない上に、顧客からの注文がいつ来るか分からない。ところが、トヨタ東日本がその注文に合わせて不定期に補給部品を発注すると、下請け企業の負担は増大する。いつ来るか分からないのに設備を維持し、受注したらその都度、金型を調整してわずかな数量の補給部品を生産しなければならないからである。
そこで、先の条件を満たし、さらにトヨタ東日本と下請け企業が協議して合意すれば、製造を打ち切るまでに必要になるとトヨタ東日本が想定する数量の補給部品を、下請け企業がまとめて生産する。そして、その部品在庫をトヨタ東日本もしくは下請け企業が保管する制度を採用している。この対象となる補給部品をトヨタ系企業は「一括生産部品」と呼ぶ。
こうした生産体制を採ること自体は下請法に抵触しない。むしろ、下請け企業にとっては好都合とも言える。最後にまとめて補給部品を造った後は、金型を廃棄できるからである。そうなれば金型を維持する必要がないため、無償保管という違反の芽も摘める。
問題は、受け取り方法と支払い方法においてトヨタ東日本側に不備があったことだ。
トヨタ東日本は下請け企業に対し、納期を定めずに一括生産部品の製造を委託していた。これを受けて、下請け企業は発注された数量の一括生産部品を製造。全てを造り終えたら、その旨をトヨタ東日本に報告した。部品在庫の保管は下請け企業が担った。そして、トヨタ東日本は顧客からの注文に応じて、必要な時に、必要な数量の一括生産部品を在庫からピックアップして納品するように下請け企業に指示していた。
これが公正取引委員会から下請法違反と認定された。トヨタ東日本は本来、下請け企業から一括生産部品の製造が完了したという報告を受けたら、すぐに全数量を受領し、速やかにその代金を支払わなければならなかったのだ。
「トヨタ生産方式」の宿痾
これが違反になる理由は、下請け企業の立場になれば容易に理解できる。下請け企業は一括生産部品を製造するために材料費や設備費、電気代、人件費などを既に支払っている。その上、造り終えた一括生産部品は、トヨタ東日本から納品の指示が来るまで自社の工場や倉庫で保管しなければならない。それなのに「トヨタ東日本はその都度、納品された分の代金しか支払わない。これでは我々は持ち出しとなり、キャッシュフローが悪化する」と部品メーカーは憤る。その上、「部品在庫を下請け企業に押し付けているという意識もトヨタ東日本にはない」(同前)。
「元凶はトヨタ生産方式にある」。トヨタ系企業で下請法違反が相次ぐ原因について、取材した部品メーカーたちは異口同音にこう語る。トヨタ生産方式には「必要な物を、必要な時に、必要なだけ」造ることを良しとし、在庫はムダとして徹底的に排除するという教えがある。ところが、トヨタ系企業はこれを妄信するあまり、本来は生産設備の一部として自社で持つべき部品加工用の金型まで「ムダな在庫」と見なすようになった。
図らずもこの矛盾の解消に力を貸してきたのが、下請け企業だ。代わりに自社の工場や倉庫で金型を保管することで、トヨタ系企業の工場から在庫が消えたように見せ掛け、トヨタ生産方式の「正当性」を証明してしまっている。これをトヨタ生産方式の偉力と勘違いしているトヨタ系企業は、今日も下請け企業から利益をかすめ取って好業績を享受しているというわけだ。
トヨタ系企業にとってトヨタ生産方式は完全無欠であり、課題や矛盾があることなど疑いもしない。だからこそ、下請法違反が続くのだ。部品メーカーの間では「次に公正取引委員会に刺されるのはトヨタ本体かもしれない」と噂されていることを知らないのはトヨタだけだろう。
トヨタ東日本は「ヤリス」や「カローラ」といった人気車種の生産拠点。別会社の形を採ってはいるものの、実質的にトヨタの小型車事業を担う部門である。これまで世間から投げ掛けられた「搾取」や「下請けいじめ」といった言葉をことごとく否定してきたトヨタだが、それが真っ赤な嘘であることが、国の当局によって暴かれたというわけだ。
トヨタ東日本が犯した違反行為は二つある。一つは金型の無償保管であり、もう一つは部品の受領拒否および無償保管だ。トヨタに忖度する新聞やテレビといった大メディアは表層的にしか扱わないが、「両方とも極めて悪質と見なすべき事案」(自動車業界に詳しい経営コンサルタント)である。
違反はすでに4社目
なぜなら、まず金型の無償保管は既に産業界で広く知られている違反行為だからだ。取り締まりを強化している公正取引委員会は、2023年3月に初めて企業名を挙げて違反行為への勧告を行った。以降、20社以上に勧告してきたが、違反状態をいまだに放置しているコンプライアンス軽視の日本企業は少なくない。「トヨタよ、おまえもか」というわけである。
いや、この問題に対するトヨタのコンプライアンス軽視は重症というべきだ。その証拠に、今回のトヨタ東日本への勧告は、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、中央発條、フタバ九州に次いでトヨタ系企業で4社目。ここにトヨタが金型の無償保管をいかに軽視しているかが表れている。
さらに悪質なのが、トヨタ東日本が行ったもう一つの下請法違反である部品の受領拒否および無償保管だ。下請け企業にまとまった数量の部品を生産させておきながら、その支払いは自社の調達の都合を優先して遅らせていたからである。
トヨタ東日本は量産が終了して補給部品を生産する体制に移った後、経過年数と生産量の条件次第で「一括生産部品」の契約に入っていた。車両の故障時などに必要となる補給部品は数量が極めて少ない上に、顧客からの注文がいつ来るか分からない。ところが、トヨタ東日本がその注文に合わせて不定期に補給部品を発注すると、下請け企業の負担は増大する。いつ来るか分からないのに設備を維持し、受注したらその都度、金型を調整してわずかな数量の補給部品を生産しなければならないからである。
そこで、先の条件を満たし、さらにトヨタ東日本と下請け企業が協議して合意すれば、製造を打ち切るまでに必要になるとトヨタ東日本が想定する数量の補給部品を、下請け企業がまとめて生産する。そして、その部品在庫をトヨタ東日本もしくは下請け企業が保管する制度を採用している。この対象となる補給部品をトヨタ系企業は「一括生産部品」と呼ぶ。
こうした生産体制を採ること自体は下請法に抵触しない。むしろ、下請け企業にとっては好都合とも言える。最後にまとめて補給部品を造った後は、金型を廃棄できるからである。そうなれば金型を維持する必要がないため、無償保管という違反の芽も摘める。
問題は、受け取り方法と支払い方法においてトヨタ東日本側に不備があったことだ。
トヨタ東日本は下請け企業に対し、納期を定めずに一括生産部品の製造を委託していた。これを受けて、下請け企業は発注された数量の一括生産部品を製造。全てを造り終えたら、その旨をトヨタ東日本に報告した。部品在庫の保管は下請け企業が担った。そして、トヨタ東日本は顧客からの注文に応じて、必要な時に、必要な数量の一括生産部品を在庫からピックアップして納品するように下請け企業に指示していた。
これが公正取引委員会から下請法違反と認定された。トヨタ東日本は本来、下請け企業から一括生産部品の製造が完了したという報告を受けたら、すぐに全数量を受領し、速やかにその代金を支払わなければならなかったのだ。
「トヨタ生産方式」の宿痾
これが違反になる理由は、下請け企業の立場になれば容易に理解できる。下請け企業は一括生産部品を製造するために材料費や設備費、電気代、人件費などを既に支払っている。その上、造り終えた一括生産部品は、トヨタ東日本から納品の指示が来るまで自社の工場や倉庫で保管しなければならない。それなのに「トヨタ東日本はその都度、納品された分の代金しか支払わない。これでは我々は持ち出しとなり、キャッシュフローが悪化する」と部品メーカーは憤る。その上、「部品在庫を下請け企業に押し付けているという意識もトヨタ東日本にはない」(同前)。
「元凶はトヨタ生産方式にある」。トヨタ系企業で下請法違反が相次ぐ原因について、取材した部品メーカーたちは異口同音にこう語る。トヨタ生産方式には「必要な物を、必要な時に、必要なだけ」造ることを良しとし、在庫はムダとして徹底的に排除するという教えがある。ところが、トヨタ系企業はこれを妄信するあまり、本来は生産設備の一部として自社で持つべき部品加工用の金型まで「ムダな在庫」と見なすようになった。
図らずもこの矛盾の解消に力を貸してきたのが、下請け企業だ。代わりに自社の工場や倉庫で金型を保管することで、トヨタ系企業の工場から在庫が消えたように見せ掛け、トヨタ生産方式の「正当性」を証明してしまっている。これをトヨタ生産方式の偉力と勘違いしているトヨタ系企業は、今日も下請け企業から利益をかすめ取って好業績を享受しているというわけだ。
トヨタ系企業にとってトヨタ生産方式は完全無欠であり、課題や矛盾があることなど疑いもしない。だからこそ、下請法違反が続くのだ。部品メーカーの間では「次に公正取引委員会に刺されるのはトヨタ本体かもしれない」と噂されていることを知らないのはトヨタだけだろう。
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