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連載

をんな千一夜 第108話

愛の永遠を信じた犠牲者
石井 妙子

2026年3月号

 最近よく耳にする「働いて働いて働いて」というフレーズを聞くと「はたらけどはたらけど」と歌った石川啄木をつい思い出してしまう。
 はたらけどはたらけど
  猶わが生活楽にならざり
   ぢつと手を見る
 貧困と孤独、不治の病に苦しみながら筆を執り続けた石川啄木。その歌に惹かれるのは美しく叙情的な調べの中に人間の業や弱さへの嘆きを感じるからだろうか。
 東海の小島の磯の白砂に
  われ泣きぬれて蟹とたはむる
 大志を抱いて東京に出てきたものの思いの数分の一も果たせずにいる。その悔しさ、やるせなさ、不甲斐なさ。強い自負心が彼自身を、それ以上に身近な人々を傷つけた。とりわけ妻の節子を。
 ふたりは14歳で出会った。ともに明治19(1886)年生まれ、揃って盛岡の出身である。ただし生まれ育った環境は大きく異なる。節子の生家である堀合家は南部藩士の家柄。父は岩手郡役所に勤めた官吏で長女の節子をミッションスクールの私立盛岡女学校(現・盛岡白百合学園中学・高校)に通わせる財力と見識があった。一方、石川家はかなり複雑な家庭・・・

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