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社会・文化

「横井小楠」再評価のすすめ

世は「龍馬一辺倒」だが

2010年8月号

 TVドラマを中心に龍馬ブームだという。それも、京都や長崎まで龍馬一色というすさまじさとのことだ。
 なるほど龍馬はいい男だ。尊王攘夷の志士といっても、海援隊という商社のはしりみたいなのを作ってみたり、当時としては考えられないほど、女に対する態度が優しかったりして、一般の志士像からはみ出したところがある。現代の若者のフィーリングに合うのも当然という気がする。
 だが、日本社会が戦後最大の混迷に陥っているかに見える今日、あいも変わらず、龍馬、龍馬と浮かれていていいのだろうか。維新革命のドラマが国民的記憶となって、小説であれTVドラマであれ、たびたびブームとなるのは、近代化の起点としての開国維新が、その後今日に至るまでの日本社会の進路を決定づけたからだろう。危機に立つごとに、われわれは開国維新の意味を問い直さねばならないわけだ。
 その問い直しは今日では、近代化という、日本のみならず世界的な普遍現象にまで及んでいる。それなのに、維新といえば龍馬さんに晋作さん、海援隊と奇兵隊というのでは、たんに芸がないというだけではなく、第一、問い直したことにもならぬので・・・