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連載

不運の名選手たち11

長井 淳子(女子柔道)ヤワラちゃんに「判定負け」十回 
中村計

2010年11月号

 巨星。先日、引退を表明した谷亮子は、日本女子柔道界において、これまでただ一人、そう呼べる存在だった。
 過去には、九年間無敗を誇った山下泰裕の陰で世界レベルの日本人選手が何人も涙をのんだ。同じように、同時代に谷がいたがために不遇をかこった実力者たちがいる。その内の一人が、谷と同じ四十八キロ級だった長井淳子だ。
 二〇〇〇年のシドニー五輪を目前に控えた頃、長井はこんな思いに苛まれていたという。
「私が亮子ちゃんに勝とうとしていることは、国民にとって余計なことかもしれない」
 長井が二学年下の田村(谷の旧姓)と初めて対戦したのは、一九九二年五月、埼玉大の一年生のときだ。舞台は、バルセロナ五輪の選考会も兼ねていた全日本女子選抜柔道体重別選手権の決勝戦。
 田村が表舞台に彗星のごとく現れたのは、その二年前、福岡国際女子柔道選手権だった。まだ中学三年生だった田村は、初出場でいきなり優勝を飾る。ニューヒロインが誕生した瞬間だった。
 思えばこのとき、田村のその後の人生は宿命づけられていたのかもしれない。そして、長井をはじめ、その田村と同・・・