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連載

あるコスモポリタンの憂国 連載49

北京大学から歴史と人物を考える
清華大学招聘教授 紺野 大介

2011年2月号

 長年の清華大学に加え、一昨年北京大学の歴史学系中外関係史研究所客座教授を拝命した。前者は自然科学であり、後者は人文科学の領域である。十数年前、清華大の院生指導後たまに自転車で北京大に入り、未名湖畔のベンチから遠くの博雅塔を眺め、次の時間へむけ充電していた頃があった。そのキャンパスで今度は日本の歴史や人物を語ることになるとは、少し不思議な気がする。海外が多く自然と自国の歴史に関心を持つようになって久しい。そのため余技ながら幕末の英傑、橋本左内著「啓発録」や吉田松陰著「留魂録」を英訳し、書として自費出版。欧米中国へ向け「素晴らしい日本」を知って欲しいとのメッセージを発信してきた想いが、北京大学とのご縁になったようである。
 中国知識人の我国・幕末維新期のエモーションに関する知的欲求は大きい。口には出さないが日本の清潔さ、日本人の謙譲さ等の風土も中国人の垂涎の的である。三年前の雪ふぶく二月にも、北京外国語大学内の北京日本学研究センター主催で、東アジア「武士道の研究」国際シンポジウムが開催された。中国共産党の本拠地・北京で「武士道」に係わる国際会議が公然と開かれた訳である。どこまで・・・