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連載

不運の名選手たち32

高橋 章(ホッケー選手)五輪に「四十四年間」出られぬ理由 
中村計

2012年8月号

 その言葉の中に、四十四年間、勝てない理由が凝縮されていた。
「落ち着いて」
「君たちは、できる」
 男子ホッケー日本代表の前ヘッドコーチ、姜建旭が、もっとも頻繁に口にした日本語はこの二つだった。アシスタントコーチの高橋章が話す。

「姜は自分が直接伝えたい言葉は、僕に聞いてきました。これは日本語で何て言うの? と」

 姜は、昨春に日本代表のヘッドコーチに就いたが、五月にロンドン五輪の出場権を逃し、そのまま契約満了で退任した。姜は就任中、日本の選手たちが、さほど追い込まれているわけでもないのに慌てる姿が不思議でならなかった。

 高橋が振り返る。
「勝ってるのに、何でそんなにドタバタするんだ、って。それから、技術は持ってるのに、日本の選手は自信がなさそうに見える、とよく言っていました」

 姜が覚えた二つの日本語。それは敗れ続けた歴史の中で、男子ホッケー界が抱えざるを得なかった宿痾でもあった。

 男子ホッケーは、今回で十一大会連続、本大会出場を・・・