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経済

このままでは日本はIMF管理下に

吉野直行(慶應義塾大学経済学部教授)

2011年3月号公開

 ---極めて深刻な財政状況が野放しになっています。

 吉野 税収の二倍の政府支出を国債で穴埋めするという、まさに異常な事態だ。毎年政府は消費税二〇%分に相当する国債を発行し続けているのだ。さらに過去の国債残高は一千兆円に近づいているが、国民にとっては遠い世界の話になってしまっている。これは消費税五%分で約百年かけてようやく返せる額だ。これらを総計すると、単純計算で消費税二五%以上の増税が必要な支出を毎年重ねているわけだ。その危険な事態が全く理解されていない。

 ---先日の日本国債の格下げがそれを何よりも表しています。

 吉野 いくら負債があろうと、返済能力があるなら格付けは落ちない。世界が日本の返済能力を本気で心配し始めたということだ。日本国債の引き受け手の九五%は国内金融機関等であるといっても、日銀のゼロ金利と量的緩和政策で辛うじて支えられているに過ぎない。本来は企業の生産に向けられるべき資金が国債に回り、景気回復や経済成長なしに、政府支出だけが肥大化している。あまりにいびつだ。何かの拍子に金利が上がり、国債がリスク資産となればこの構図もいずれ崩れる。

 ---仮にこの状態が続いた場合、その先に待ち受けている事態は。

 吉野 重要なのは国債を消化できるかどうか。金利が上昇し、国債リスクが高まれば、国内金融機関といえども買い支えられず、国債価格の暴落や国債利子率の急上昇を招く。国債が市場で消化できなければ、財政はたちどころに破綻する。そうなれば、かつての韓国のようにデフォルト(債務不履行)を宣言し、IMFの管理下に入ることになる。金利は何の予兆もなく上がる。それが一番怖い。危機は突然に起こる。ただしその時の被害の深刻さは韓国とは比較にならない。彼らのはアジア通貨危機による一時的なショックで、小さな川が一部決壊したようなもの。しかし日本の場合、高齢化や地方経済の疲弊といった構造的な問題が主因で、経済規模も大きく違う。まるで巨大な川が流れそのものを変えている。

 ---日本には巨額の個人資産があると主張する向きもありますが。

 吉野 日本の個人金融資産は目減りし続け、今では一千四百五十兆円程度だろう。ここから住宅ローンと自動車ローンを引くと、ネットの個人資産は約一千五十兆円。現在の日本の国債残高はまさにこの水準に達しつつある。国のバランスシート上、資産と負債がほぼ同額になったのだ。外為介入で得た約百兆円の外国債券もあるが、これとて国債残高の一割にも満たない。企業の内部留保も二百兆円ほどあるが、これも現在の財政状況が続けば、三~四年で呑み込まれてしまう。逃げ足の速いグローバルマネーはこうした指標を静かに注視しているに違いない。

 ---有効な処方箋はありますか。

 吉野 まずは高齢者の有効活用による年金、介護、医療の大幅削減。それと地方の公共事業への民間資金の活用。これにより国債の六割近くを占める「社会保障費」と「地方への配分」を削減するのが急務だ。当然、痛みの伴う増税も直視しなければならない。霞が関埋蔵金の発掘や無駄の削減など、この期に及んでは問題の本質ではない。しかし、政治主導のなかで、責任を持つべき官僚は委縮し、再選だけが目的の政治家は現状から目を背け、増税を口にしない。本丸の議論を避けてはならない。
 
 〈インタビュアー 編集部〉

吉野直行(慶應義塾大学経済学部教授)
1950年 東京都生まれ。75年東北大学大学院経済学修士。79年ジョンズ・ホプキンス大学で経済学博士号取得。ニューヨーク州立大学助教授などを経て、91年より現職。財政制度等審議会委員、金融庁金融研究センター長などを務める。


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