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社会・文化

千鳥ヶ淵「桜」讃歌

天の配剤による「空間美」

2011年4月号

 東京のど真ん中、千代田区は、まごうかたなき桜の名所である。区民四万八千人に対して、昼間の人口が八十余万人になるという、政治、経済、司法の中心地。どこを見てもビルが林立するが、東京を訪れる外国人は口をそろえて、緑が多い、と感心する。区の一五%を占める皇居の緑地は、動植物相が豊かな森を成し、それを囲むように、桜の樹林帯が形成されている。
 千代田区内にはおよそ五十種、三千本の桜がある。春にはビルの狭間や幹線道路沿いの染井吉野や山桜が、大都市の単色で無機的景観に、和やかな彩りを添える。
 千代田の桜といえば、切っても切れないのがアーネスト・サトウ。イギリス公使(明治二十八年から三十三年在任)の職にあった明治三十一年に、英国公使館(現大使館)付近に桜を植えて東京府に寄贈している。桜の種類は定かではないが、それまで「吉野桜」といわれていた園芸品種の桜が、染井吉野と改称され、全国に人気高騰した時期であり、おそらく、染井吉野だったろう、と推測される。

苛烈な運命に晒された


 古木もある。・・・