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連載

皇室の風 44

国譲り神話と美濃部達吉
岩井克己

2012年4月号

 美濃部達吉・東京帝国大学教授は天皇機関説を攻撃された時、古事記の国譲り神話を盾にした。

「古事記には、天照大神が出雲の大国主命に問はせられました言葉と致しまして、『汝カウシハケル葦原ノ中ツ国ハ我カ御子ノシラシム国』、云々とありまして、『ウシハク』と云ふ言葉と、『シラス』と云ふ言葉と書き別けてあります。(略)天皇の御一身上の権利として統治権を保有し給ふものと解しまするのは、即ち天皇は国を『シラシ』給ふのではなくして、国を『ウシハク』ものとするに帰するのであります」(一九三五年二月二十五日、貴族院での「一身上の弁明」)。

 井上毅、伊藤博文の立憲作業が念頭にあったのだろう。
 天皇機関説排撃・国体明徴運動を思い出したのは、最近の天皇、「女性宮家」論議がとげとげしい大時代なものになりそうな危惧からだ。

 国会で「神武天皇以来一二五代、二千六百七十二年間も万世一系の天皇」と、無前提に皇紀を持ち出す質問が出たり、自民党や大阪維新の会から唐突に「天皇元首化」の憲法改正論が出てきたりすると、戦前に逆戻りするかの錯覚を覚える・・・