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連載

本に遇う 連載162

松本清張の虚妄
河谷史夫

2013年6月号

「読者は蚤」と言ったのは山本夏彦である。村上春樹の新作が一週間で百万部を超えたそうだ。この出版不況の世に有難いことである。小説家は身体中を蚤に食われながら、笑いが止まるまい。

 もっともその有難さがいつまで続くかは保証の限りでない。山本によれば、「読者は作者の遺体が、つめたくなると同時に去る」から「作者は死ぬと同時に読者を失う。流行作家ならおびただしい読者を、あっというまに失う」とある。

 たしかに、凡百の著作が本屋には並んでいるけれど、生きているうちが花で、死ねばだんだんしぼんでいき、やがて絶版にされて二度と返らない。例外がある。司馬遼太郎と松本清張は没後十年、二十年経っても健在である。御両人にとりつく蚤は「遺体のつめたさ」などものともしない習性を持つものと見える。

 半藤一利に『清張さんと司馬さん』がある。清張は「純文学から出発して、歴史小説、社会派推理小説、『日本の黒い霧』『昭和史発掘』、さらに古代史、晩年には森鴎外研究と、絶えることなく執筆を続けました。全集六十六巻、原稿用紙四百字詰十万枚をはるかに超えます。関心・・・