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経済

セブン―イレブン商法に「労働委」の鉄槌

「独り勝ち」ビジネスモデルを全否定

2014年5月号公開

 三期連続で過去最高益を叩き出し、「我が世の春」を謳歌するかに見えるセブン―イレブン・ジャパン(以下セブン)の受けた衝撃の大きさが、マスコミに発表したコメントにはにじみ出ていた。

「このたびの命令は極めて不当」

「国益を損なう判断と言っても決して過言ではありません」

「フランチャイズシステムというビジネスモデルを、真っ向から否定するものと受け止め、上級庁や司法の適正な判断を求めていく」

 三月二十日、岡山県労働委員会(宮本由美子会長)は、セブンをはじめコンビニ各社の店主らが加入する「コンビニ加盟店ユニオン」(池原匠美委員長、連合岡山加盟)が、セブンによる団体交渉(団交)拒否の救済を求めていた事件で、ユニオンの主張を全面的に認め、セブンに団体交渉に応じるよう命令を下した。

「大広告主」に遠慮した多くの大手マスコミが報道を控えたためほとんど知られていないが、これはコンビニ加盟店の店主(店長)が「労働組合法上の労働者に当たるかどうか」が争われた事件での初の公的判断である。

 セブンは四月一日、この命令を不服として中央労働委員会(中労委)に再審査を申し立てたが、年間二千百二十七億円の営業利益(二〇一四年二月期)を稼ぐ同社の「独り勝ちモデル」への包囲網は、じわじわと狭まっている。

加盟店主は「労働者」

 コンビニ加盟店ユニオンの池原委員長は、「ここまで長かったが、『話し合いの場が必要』という一番の希望が理解され、うれしかった。それだけに席に着こうとしないセブンの態度が残念」と話す。支援してきた連合岡山の関之尾政義副会長も、「この命令は画期的。会社の圧力に負けずに頑張った店主たちに感謝したい」と振り返る。

 セブンをはじめコンビニ各社の店主が加入するコンビニ加盟店ユニオンは、〇九年に結成された。同年、セブンに団交を申し入れたが、同社は「加盟店主は労働者ではなく独立事業者だから、団交に応じる考えはない。店主からの相談には個別に対応する」と言い張り、団交を頑なに拒否してきた。

 ユニオンは「個々に話すのでは本部と対等でなく、契約上の問題も改善できない」と考え、岡山県労委に救済を申し立てたのが今回の事件の発端だ。労働者を使う会社は、その労働者が加入する組合からの団交の申し入れを原則として拒否できないが、セブンの場合は、コンビニの店主が「(労働組合法上の)労働者かどうか」が争点になった。セブンと加盟店とは「対等な独立事業者」だというのがフランチャイズ契約の重要な「建前」だ。岡山県労委でもセブンは、「加盟店主には広範な裁量がある」「おでんの一日の売り上げも、三千円から二百七十万円までの差が生じる。この差は……裁量の『生かし方』の差」と主張した。

 それに対し岡山県労委は、たとえ事業者であっても、契約相手と大きな交渉力格差があるため、「労働組合を組織し集団的な交渉による保護が図られるべき者が幅広く」いると指摘。具体的には、・事業組織への組入れ、・契約内容の一方的・定型的決定(交渉力格差)、・報酬の労務対価性、・業務の依頼に応ずべき関係、・広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、・顕著な事業者性(が弱いこと)―の六つの判断要素に即して店主らの働き方を検討し、こう認定した。

「加盟店主は年中無休・二十四時間の店舗営業を義務付けられており、……加盟店主及びその家族従業員が実際の店舗経営・運営に相当の時間携わらざるをえない。……加盟店主は、会社の業務遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されている」

「オーナー総収入は、加盟店主のセブン―イレブン店の経営・運営の成果そのものであり……店舗経営・運営に携わった労務の対価であるというべきである」

 つまり、セブンのフランチャイズ契約は「独立事業者間の対等な協力」を装いながらも、その実態は、店主夫妻が本部の指示に従って身を粉にして働くことで成り立っていると喝破したのである。

 本誌が一三年十月号で報じた、店主が毎日送金させられる売り上げが本部のものになってしまうという問題についても、「売上金は、加盟店主が会社に送金することにより、会社に帰属する」と明快に認定。他方、「加盟店主の裁量、自主的判断の余地は極めて小さい……。会社の契約解除権や契約更新拒絶権は……他に生計の手段を持たない加盟店主にとっては常に脅威となり」とも指摘する。店舗ごとのおでんの売り上げの差より、はるかに重大な事情だろう。

訴訟を抱える米国の店主も注目

 こうした実態を詳しく見た岡山県労委は、コンビニ店主は労働組合法上の労働者に当たり、「会社(セブン)との交渉の場を開くことが肝要」と判断した。ある岡山県労委関係者が明かす。「当初は消極的な意見もありましたが、公益委員が勉強会を重ね、『話し合いの場さえないのは不条理である』という判断になった」。

 今回の決定のベースになっているのが、一一年四月に出された新国立劇場合唱団員契約打ち切り事件の最高裁判決だ。新国立劇場を運営する財団と争った日本音楽家ユニオンの篠原猛代表運営委員は、「『合唱団員も労働者』と認めた私たちの最高裁での逆転勝訴も、今回の岡山県労委決定も、『働き方の実態』を見たことが特徴だ。私たちの裁判が少しでも役に立ったならうれしい」と喜ぶ。

 最高裁判決を受けて厚生労働省・労使関係法研究会は一一年七月に報告書をまとめ、「労働組合法上の労働者性の判断基準」をまとめた。今回、岡山県労委が採用した「六つの判断要素」は、この基準に沿ったものだ。龍谷大学法学部の脇田滋教授(労働法)が解説する。「岡山県労委決定は、最高裁判決からの流れを受けたものだ。契約の形式より働き方の実態を重視するのも労働法の大原則で、コンビニ店主の実態は、どう見ても『名ばかり事業主』。中労委はもちろん、行政訴訟になっても、この判断は維持されると思う」。

 利益を独り占めしたいセブンは「国益」ならぬ「社益」を賭けてあがくが、コンビニ加盟店ユニオンの三井義文副委員長は、「県労委決定は米国の店主にも注目されている。今後連携を強めるつもりだ」と話す。米国でセブンが「雇用詐欺」と批判され訴訟も起きているのは、本紙既報の通りだ。

 セブンの親会社、セブン&アイ・ホールディングスはこれまで、加盟店主などと度重なる訴訟を抱えながら、有価証券報告書においては「現在までのところ、当社グループの業績に重大な影響を及ぼす訴訟等は提起されておりません」(第八期有価証券報告書)と強弁してきた。

 だが、自ら「ビジネスモデルを真っ向から否定する」と評した命令が海外にも波及しようとする今、もはや無視はできまい。次の有報の記載は果たしてどうなるのか。


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