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社会・文化

流転の国宝「乾漆十大弟子立像」

失われた仏像が辿った「旅路」

2014年6月号

 美術品の価値を決める要素は多様だ。現代美術においては、それは通常作者名の大きさや作品の状態だったりするのだが、古美術に関していえば、もう一つ忘れてはならない重要な要素があって、それは「来歴」である。  今年三月の半ば過ぎ、極めて重要な「来歴」を持つ日本美術品が、海外のオークションに出品された。そのオークションとは、ニューヨークで毎年開催される恒例の「アジアン・アート・ウイーク」中の、世界的オークション会社クリスティーズによるアジア宗教美術のオークション。重要な日本美術品とは、天平時代七三四年頃の制作とされている仏教彫刻「乾漆十大弟子立像」であった。  クリスティーズのカタログを見ると、この仏像に関する来歴の欄には「興福寺旧蔵」とあった。つまりこの作品が、現在六体のみが残存し、国宝指定となっている奈良興福寺国宝館にある、「十大弟子群像」のうちの一体であったことを指摘している。  この興福寺の「十大弟子群像」は、日本美術史上においてもごくわずかな期間のみ用いられた「乾漆」技法で作られている。そして釈迦の弟子であることから、当然インド人風であるべき弟子たちの体躯や表情も、・・・