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馬鹿げている「ピケティ・ブーム」

吉川 徹(大阪大学大学院 人間科学研究科教授)

2015年3月号

 ―トマ・ピケティがブームとなり「格差」が注目されています。

 吉川 正直、「またか」という印象を受ける。十年ほど前にも「日本は格差社会だ」という話が盛り上がり、その後は「貧困」がキーワードになったこともある。定期的にこのようなブームが来るのは、日本人の心の中に「格差」という言葉を受け入れやすい土壌があるためだ。そこにうまくはまるのだろう。そもそも、ピケティの本をどれだけの人が読んだか知らないが、彼はこの数年の個人の格差拡大について論じているわけではなく、二十世紀からの富の蓄積や再生産について述べているのであり、それを現代日本人の暮らしぶりとは直結させられない。


 ―日本には現在メディアで論じられているような格差はありますか。

 吉川 言われているほど深刻な実態はない。外国のようにスラム街があるわけではなく、目に見える階級もない。ただし高度成長時代をとうの昔に終えて、特にこの・・・