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連載

皇室の風87

歳歳年年人同じからず
岩井克己

2015年11月号

 年中行事の定型が年々繰り返される伝統と慣習の世界。悠久の時間が流れ続ける半面、だからこそ逆に「歳歳年年人同じからず」を思い知る持ち場が宮内庁だった。微妙な「変化」はそこに居続けなければ見えてこない。灯台守か測候所員のように孤独に持ち場を守る「定点観測」の仕事でもある。

 宮内記者会にも多々「慣わし」があって、駆け出し記者は面食らうことが多い。昭和六十一(一九八六)年二月、つまり昭和の終わりまで残り三年という時期に配属された筆者が、まず面食らったのは長官会見だった。

 二十人前後の記者が長官応接室にそろい、おもむろに富田朝彦長官が執務室との間のドアを開けて入って来ると、記者たちが一斉に起立して迎えたのには驚いた。「宮内庁長官ってそんなに偉いのか」と。この慣例は二年半後に藤森昭一長官に代わると自然消滅したところを見ると、富田の前任で二十五年間務めた名物長官宇佐美毅の頃からの惰性だったのだろう。

 逆に印象的だったのが、公式式典取材で記者席に座ると、場内アナウンスが「君が代斉唱。起立・ご唱和ください」と告げても、起立する者は・・・