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連載

日本の科学アラカルト84

重要物質「アンモニア」 エネルギー源としての有用性

2017年8月号

 アンモニア―。NH3という化学式で表され、その強烈な臭いで知られている。世界中で年間一億六千万トン以上が製造される極めて工業的に重要な物資で、主な用途は肥料である。植物が生育するために必要な必須三元素は、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)だ。窒素は、空気中の八割を占める単体(N2)として存在しているが、とても安定的であるため豆類以外の植物は直接取り込むことができない。
 そこでかつては豆類を栽培することで、土中から農業に必要な窒素を得てきたが、二十世紀初頭に劇的変化が起きた。ハーバーとボッシュという二人の科学者の発見によって、窒素と水素から大量のアンモニアを合成する方法が開発されたのである。現在もこのハーバー・ボッシュ法はアンモニア製造の主流である。
 化学工業、農業の分野で存在感を発揮してきたアンモニアが近年、さらに注目されるようになった。それは「エネルギー・キャリア」としての可能性だ。アンモニアは直接燃焼させることが可能だ。当然ながら二酸化炭素は排出されず、NOXと称される窒素酸化物の排出量もコントロール可能。すでにアンモニアを直接燃焼させる発電炉も実証実・・・