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社会・文化

ワイン造りは「大資本支配」の時代に

消えゆく「農民の酒」に愛飲家の嘆き

2017年9月号

 手造りする農民に支えられてきた世界のワイン産地が、変貌している。地価の高騰や後継者難により、裕福な実業家や大企業が職人的な造り手を呑み込んでいる。
 今年初め、わずか十一ヘクタールのワイナリー買収のニュースが、世界のワイン業界を駆け巡った。カリフォルニアで最も高価なカルトワイン「スクリーミング・イーグル」を所有する億万長者が、ブルゴーニュ最高の白ワイン、コルトン・シャルルマーニュの歴史的なドメーヌであるボノー・デュ・マルトレイを買収した。その情報は、アメリカ人にも、フランス人にも衝撃を与えた。 
 スクリーミング・イーグルの生産量は約一万八千本。定期購入者向けメーリングリストでの赤ワインの直売価格は一本九百五十ドルだが、転売先のワインショップで二千〜三千ドルで売られる。飲んだことが自慢話になるカルトワインだ。オーナーのスタン・クロンケは、二〇一六年発表の金持ちランキング「フォーブス四〇〇」で五十八位に入った資産七十四億ドルの実業家。NBAのデンバー・ナゲッツ、NFLのロサンゼルス・ラムズ、英プレミアリーグのアーセナルなどを所有し、スポーツ業界では知られた存在だ。{・・・