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連載

をんな千一夜 第17話

勤王の志士を支えた長崎商人
石井 妙子

2018年8月号

《大浦お慶》

 日本茶が世界的に好まれるようになり、空港などでは「抹茶味」の菓子が土産物として飛ぶように売れている。生魚を食べるなんて信じられない、野蛮だといわれていたのに、今や鮨は世界中で大人気だ。それと歩調を合わせるように、緑茶の輸出量も年々増えているという。こうしたブームは、ここ数年の傾向ではあるが、実は幕末、すでに日本茶を欧米に売り込み、莫大な富を得た女性がいた。名は大浦お慶という。
 出島のあった国際都市、長崎の裕福な商家にお慶が生まれたのは、一八二八(文政十一)年。それはちょうど出島に滞在中の医師シーボルトが、日本地図を持ち出そうとして国外退去処分を受ける「シーボルト事件」が起こった年でもある。
 生家は長崎に代々続いた大店の油問屋。お慶を溺愛した祖父の大浦大右衛門は、孫娘に家を継がせようと考えて、商人仲間の賀古家から次男の大五郎をお慶の許婚として養子に迎えた。
 ところが、お慶が九歳の時に、十歳年長だった大五郎は、あっけなく流行病で亡くなってしまう。さらに不幸は続き、大黒柱の祖・・・