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連載

現代史の言霊 第9話

一月の合意  1989年(全欧安保協力会議)
伊熊 幹雄

2019年1月号

一九八九年
《大規模な政治的弾圧に向かっている》

レフ・ポノマリョフ(ロシア人権活動家)

 今年は東西冷戦終結の一九八九年から三十年にあたる。本連載でもベルリンの壁崩壊をはじめ、劇的事件の現場をいくつか再訪する。
 年初に紹介するのはオーストリア・ウィーンのホーフブルク宮である。ハプスブルクの豪奢は、革命の現場からほど遠く見える。だが八九年一月に閉幕した「全欧安全保障協力会議」は、最も根源的な「人権」の問題で、東西の合意を達成した。それが「鉄のカーテン」の向こう側にいた人たちを一気に勇気づけたのである。
 会議は、ソ連が望んだ。自国の東欧支配を西側に認めさせるのが狙いだった。七〇年代初頭に、ヴィリー・ブラント西ドイツ首相が「東方外交」で独ソ和解に成功すると、レオニード・ブレジネフ・ソ連共産党書記長は「これを全欧規模でやろう」と求めた。フィンランドの首都ヘルシンキが最初の舞台になり、七五年八月、「ヘルシンキ宣言」を採択した。

人権要求を恐れたソ連共産党・・・