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連載

《世界の キーパーソン》ハユ王女

イスラム国家「文化闘争」の主役

2019年1月号

 少し昔の話である。
 インドネシアの古都ジョグジャカルタには、英明で勇敢な国王(スルタン)がいた。
 ハメンクブウォノ九世は、皇太子のころ、植民地宗主国であったオランダのライデン大学で学び、西欧の豊かさと近代的制度に圧倒されて帰国した。一九四〇年、前年の父王の死を受けて即位した時は二十七歳だった。
 若い国王はすぐに第二次世界大戦、オランダ敗北、日本軍の進駐という激動に巻き込まれたが、知恵と勇気で臣民を守った。
 インドネシア独立戦争では、他の土侯と異なって独立を支持。自らゲリラ戦を指揮した。新生インドネシアで唯一、ジョグジャカルタ(特別州)が地域王制として残ったのも、この功績からだ。王はインドネシア副大統領まで務めた。
 ジョグジャカルタ王室が自由闊達、進取の気質に満ちたのもこの王の時からだ。息子のハメンクブウォノ十世は一夫多妻制を廃止し、女性の権利拡大をはかった。妻(女王)も活力に溢れ、夫妻は五人の、陽気で活発な娘たちにめぐまれた。
 ハユ王女は四女である。
 子供のころから頭の回転が速く、ゲームとパズルが大好・・・